東京地方裁判所 平成6年(行ウ)67号 判決 2000年3月29日
原告 日本貨物鉄道株式会社
右代表者代表取締役 伊藤直彦
<他1名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 西迪雄
同 向井千杉
同 富田美栄子
同 富樫基彦
被告 中央労働委員会
右代表者会長 花見忠
右指定代理人 菅野和夫
<他6名>
参加人 全日本建設交運一般労働組合 全国鉄道本部(変更前の名称 全国鉄動力車労働組合)
右代表者委員長 三浦隆雄
<他1名>
右参加人ら訴訟代理人弁護士 竹澤哲夫
同 大森鋼三郎
同 廣谷睦男
同 佐藤太勝
同 佐藤哲之
同 内田信也
同 菊池紘
同 岡村親宜
同 加藤健次
同 松島暁
同 松本篤周
同 東垣内清
同 村松昭夫
主文
一 被告が、中労委平成元年(不再)第二五号事件及び同年(不再)第二七号事件(初審北海道地労委昭和六二年(不)第二八号事件)について平成六年一月一九日付けで発した命令のうち、主文第Ⅰ項の1号から6号まで及び第Ⅱ項を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とし、参加によって生じた訴訟費用は参加人らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の改革として、国鉄から旅客鉄道事業、貨物鉄道事業を承継する株式会社として原告らが設立されるに当たり、設立委員によって原告ら承継法人(改革法の用語によった。)への職員の採用が行われたが、国鉄の職員で承継法人の職員となる意思を表示した者のうち、後記の全動労の組合員らが採用されなかったため、全動労らが北海道地方労働委員会に対し救済申立てをし、北海道地方労働委員会は救済命令を発した。そこで、原告らが被告に対し、再審査申立てをしたが、被告は、北海道地方労働委員会の命令を一部変更したほか再審査申立てを棄却する命令を発した。
本件は、原告らが、被告の右命令のうち再審査申立てを棄却した部分の取消しを求める行政事件訴訟であり、被告が、国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員、ひいては原告らに帰属すると解したことの当否等をめぐる事案である。
一 法令等の内容(原則として法文どおりの表記をした。)
1 日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律八十七号。以下、法令の条文中に引用される場合を除き、「改革法」という。)
第一章総則
(趣旨)
第一条
この法律は、日本国有鉄道による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基幹的輸送機関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であるにかんがみ、これに即応した効率的な経営体制を確立するための日本国有鉄道の経営形態の抜本的な改革(以下「日本国有鉄道の改革」という。)に関する基本的な事項について定めるものとする。
(改革の実施時期)
第五条
日本国有鉄道の改革は、昭和六十二年四月一日に実施するものとする。
第二章日本国有鉄道の改革に関する基本方針
(旅客鉄道事業の分割及び民営化)
第六条第一項
国は、日本国有鉄道が経営している旅客鉄道事業について、主要都市を連絡する中距離の幹線輸送並びに大都市圏及び地方主要都市圏における輸送その他の地域輸送の分野において果たすべき役割にかんがみ、その役割を担うにふさわしい適正な経営規模の下において旅客輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその事業の経営を分割するとともに、その事業が明確な経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするものとする。
第六条第二項
国は、旅客鉄道株式会社(前項の規定により旅客鉄道事業を経営する株式会社をいう。)として、次の各号に掲げる株式会社(以下「旅客会社」という。)を設立し、それぞれ、主として当該各号に定める地方において日本国有鉄道が経営している旅客鉄道事業を当該旅客会社に引き継がせるものとする。
一 北海道旅客鉄道株式会社 北海道
二 東日本旅客鉄道株式会社 東北及び関東
三 東海旅客鉄道株式会社 東海
四 西日本旅客鉄道株式会社 北陸、近畿及び中国
五 四国旅客鉄道株式会社 四国
六 九州旅客鉄道株式会社 九州
(貨物鉄道事業の分離及び民営化)
第八条第一項
国は、日本国有鉄道が経営している貨物鉄道事業について、主として長距離の輸送及び大量の輸送の分野において果たすべき役割にかんがみ、一体的かつ適正な経営管理体制の下において貨物輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその経営を旅客鉄道事業の経営と分離するとともに、その事業が明確な経営責任の下において自主的に運営されるようその経営組織を株式会社とするものとする。
第八条第二項
国は、前項の規定により貨物鉄道事業を経営する株式会社として、日本貨物鉄道株式会社(以下「貨物会社」という。)を設立し、日本国有鉄道が経営している貨物鉄道事業を貨物会社に引き継がせるものとする。
(日本国有鉄道清算事業団への移行)
第十五条
国は、日本国有鉄道が承継法人に事業等を引き継いだときは、日本国有鉄道を日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に移行させ、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行わせるものとする。
(職員の再就職の促進のための特別の措置)
第十七条
国は、日本国有鉄道の改革の実施に伴い一時に多数の日本国有鉄道の職員が再就職を必要とすることとなることにかんがみ、これらの者に関し、再就職の機会の確保及び再就職の援助等のための特別の措置を講ずるものとする。
第三章日本国有鉄道の事業等の引継ぎ等
(事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する計画)
第十九条第一項
運輸大臣は、日本国有鉄道の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。
第十九条第二項
基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲に関する基本的な事項
二 承継法人に承継させる資産、債務並びにその他の権利及び義務に関する基本的な事項
三 日本国有鉄道の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数
四 その他承継法人への事業等の適正かつ円滑な引継ぎに関する基本的な事項
第十九条第三項
運輸大臣は、基本計画を定めたときは、日本国有鉄道に対し、承継法人ごとに、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画(以下「実施計画」という。)を作成すべきことを指示しなければならない。
第十九条第四項
実施計画は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項(中略)について記載するものとする。
一 当該承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲
二 当該承継法人に承継させる資産
三 当該承継法人に承継させる国鉄長期債務その他の債務
四 前二号に掲げるもののほか、当該承継法人に承継させる権利及び義務
五 前各号に掲げるもののほか、当該承継法人への事業等の引継ぎに関し必要な事項
第十九条第五項
日本国有鉄道は、第三項の規定による指示があったときは、基本計画に従い実施計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない。
(以下省略)
(事業等の引継ぎ)
第二十一条
第十九条第五項の認可を受けた実施計画(中略。以下「承継計画」という。)において定められた日本国有鉄道の事業等は、承継法人の成立の時(中略)において、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとする。
(権利及び義務の承継)
第二十二条
承継法人は、それぞれ、承継法人の成立の時において、日本国有鉄道の権利及び義務(中略)のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継する。
(承継法人の職員)
第二十三条第一項
承継法人の設立委員(当該承継法人が第十一条第一項の規定により運輸大臣が指定する法人である場合にあっては、当該承継法人。以下「設立委員等」という。)は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとする。
第二十三条第二項
日本国有鉄道は、前項の規定によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する日本国有鉄道の職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る同項の採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出するものとする。
第二十三条第三項
前項の名簿に記載された日本国有鉄道の職員のうち、設立委員等から採用する旨の通知を受けた者であって附則第二項の規定の施行の際現に日本国有鉄道の職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される。
第二十三条第四項
第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項、同項の規定による提示の方法、第二項の規定による職員の意思の確認の方法その他前三項の規定の実施に関し必要な事項は、運輸省令で定める。
第二十三条第五項
承継法人(第十一条第一項の規定により運輸大臣が指定する法人を除く。)の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする。
第二十三条第六項
第三項の規定により日本国有鉄道の職員が承継法人の職員となる場合には、その者に対しては、国家公務員等退職手当法(昭和二十八年法律第百八十二号)に基づく退職手当は、支給しない。
第二十三条第七項
承継法人は、前項の規定の適用を受けた承継法人の職員の退職に際し、退職手当を支給しようとするときは、その者の日本国有鉄道の職員としての引き続いた在職期間を当該承継法人の職員としての在職期間とみなして取り扱うべきものとする。
2 日本国有鉄道改革法施行規則(昭和六十一年十二月四日運輸省令第四十一号。以下「改革法施行規則」という。)
(労働条件の内容となるべき事項)
第九条
法第二十三条第一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項は、次に掲げるものとする。ただし、第五号から第十一号までに掲げる事項については、同項に規定する設立委員等がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに職員を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項
(以下省略)
(提示の方法)
第十条
法第二十三条第一項の規定による提示は、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を記載した書面を日本国有鉄道の各作業場の見やすい場所に常時提示し、若しくは備え付け、又は日本国有鉄道の職員に交付することにより行うものとする。
(職員の意思の確認の方法)
第十一条
法第二十三条第二項の規定による職員の意思の確認は、書面により行うものとする。
(名簿の記載事項等)
第十二条第一項
法第二十三条第二項の名簿には、次に掲げる事項を記載するものとする。
一 氏名
二 生年月日
三 所属する本社の部局、附属機関又は地方機関の名称
第十二条第二項
前項の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料を添付するものとする。
3 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年十二月四日法律第八十八号。以下「鉄道会社法」という。)
附則
(設立委員)
第二条第一項
運輸大臣は、それぞれの会社ごとに設立委員を命じ、当該会社の設立に関して発起人の職務を行わせる。
第二条第二項
設立委員は、前項及び日本国有鉄道改革法(昭和六十一年十二月四日法律第八十七号。以下「改革法」という。)第二十三条に定めるもののほか、当該会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる。
4 日本国有鉄道清算事業団法(昭和六十一年十二月四日法律第九十号。以下「清算事業団法」という。)
(目的)
第一条第一項
日本国有鉄道清算事業団は、日本国有鉄道改革法(昭和六十一年法律第八十七号。以下「改革法」という。)に定める日本国有鉄道の改革の実施に伴い、旅客鉄道株式会社等による日本国有鉄道からの事業等の引継ぎ並びにその権利及び義務の承継等の後において、日本国有鉄道の長期借入金及び鉄道債券に係る債務(以下「国鉄長期債務」という。)その他の債務の償還、日本国有鉄道の土地その他の資産の処分等を適切に行い、もって改革法に基づく施策の円滑な遂行に資することを目的とする。
第一条第二項
日本国有鉄道清算事業団は、前項に定めるもののほか、臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を行うことを目的とする。
第四章業務
(業務の範囲)
第二十六条第一項
事業団は、第一条第一項の目的を達成するため、次の業務を行う。
(前略)
四 前三号に掲げるもののほか、日本国有鉄道の改革の実施に伴い事業団に帰属した権利及び義務の行使及び履行のために必要な業務を行うこと。
(中略)
六 前各号に掲げるもののほか、第一条第一項の目的を達成するため必要な業務を行うこと。
第二十六条第三項
事業団は、前二項に規定する業務のほか、第一条第二項の目的を達成するため、臨時に、その職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進のために必要な業務を行う。
附則
(事業団への移行)
第二条
日本国有鉄道は、改革法附則第二項の規定の施行の時において、事業団となるものとする。この場合において、他の法令の適用については、政令で定めるところにより、事業団を特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人又はこれに類する法人とみなす。
(職員の再就職の促進に関する業務の実施)
第七条
事業団は、第二十六条第三項に規定する業務については、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(昭和六十一年法律第九十一号)の定めるところにより行う。
二 前提となる事実(争いのない事実のほか、証拠によって認定した事実を含む。)
1 当事者等
(一) 原告日本貨物鉄道株式会社(以下「原告貨物会社」という。)は、昭和六二年四月一日、改革法及び鉄道会社法に基づき、国鉄が経営していた貨物鉄道事業を承継して設立された株式会社であり、肩書地に本社を、本社の下に北海道等六ブロックに支社を、その下に必要に応じ支店、営業所等を置き、その従業員数は後記初審審問終結時約一万二〇〇〇人である。
(二) 原告北海道旅客鉄道株式会社(以下「原告北海道会社」という。)は、昭和六二年四月一日、改革法及び鉄道会社法に基づき、国鉄が経営していた旅客鉄道事業のうち、主として北海道における事業を承継して設立された株式会社であり、肩書地に本社を置き、その従業員数は後記初審審問終結時約一万三〇〇〇人である。
(三) なお、国鉄当時、国鉄本社の下に北海道総局(以下「道総局」という。)を始めとする四つの総局があり、道総局の下に青函船舶鉄道管理局(以下「青函局」という。)、旭川鉄道管理局(以下「旭鉄局」という。)、釧路鉄道管理局(以下「釧鉄局」という。)、北海道地方自動車部、北海道地方資材部、苗穂工場及び札幌工事事務所があった。道総局には附属機関として北海道鉄道学園、札幌鉄道病院が属していた。(昭和六〇年三月までは道総局の下に札幌鉄道管理局があったが、道総局に統合された。昭和六一年当時、道総局及び各鉄道管理局には各局内に総務部を始め六ないし三の部が存するほか、それぞれに駅、機関区等の現業機関が属していた。)
(四) 日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)は、国鉄から承継法人に承継されない資産、債務等の処理業務等及び承継法人に採用されなかった国鉄職員の再就職の促進を図るための業務を行うことを目的として、改革法及び清算事業団法に基づき、昭和六二年四月一日に成立した法人である。清算事業団は、平成一〇年一〇月二二日をもって解散し、日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律二条一項の規定により政府が承継する債務以外の清算事業団の一切の権利義務は、日本鉄道建設公団に承継されている(日本国有鉄道清算事業団の債務等の処理に関する法律附則二条、一条、同法律の施行期日を定める政令)。
(五) 全国鉄動力車労働組合は、国鉄の職員のうち、機関車、電車、軌道車その他動力車に関係のある職務に従事する者(以下「動力車関係者」という)等により昭和四九年三月に結成された労働組合であり、昭和六二年四月一日以降後記再審査審問終結時においては、承継法人、清算事業団等に勤務する職員のうち動力車関係者で組織されており、全国に下部組織として六地方本部を置き、その組合員数は後記初審審問終結時で約一五五〇人である。結成当時は全国鉄動力車労働組合連合会との名称であったが、昭和六二年三月、連合会組織を単一組織とするとともに、その名称を全国鉄動力車労働組合と変更した。なお、本件口頭弁論終結後、全日本建設交運一般労働組合全国鉄道本部へと名称を変更したことは本件訴訟記録上明らかである(本件訴訟の参加人としての地位を示す場合は別として、組織及び名称の変更の前後を通じて、以下右組合を「全動労」という。)。
(六) 全国鉄動力車労働組合北海道地方本部(以下「全動労北海道地方本部」という。)は、北海道の国鉄職員のうち動力車関係者等により昭和四九年三月に結成された全国鉄動力車労働組合北海道地方労働組合協議会が昭和六二年三月にその組織及び名称を変更した労働組合であって、同年四月一日以降後記再審査審問終結時においては、原告北海道会社、同貨物会社の北海道支社及び清算事業団の北海道雇用対策部に勤務する職員のうち動力車関係者等で組織されており、下部組織として一一の支部を置き、その組合員数は後記初審審問終結時で約四三〇人である。
(争いのない事実、弁論の全趣旨)
2 命令の存在
(一) 全動労及び全動労北海道地方本部は、北海道地方労働委員会に対し、原告北海道会社及び同貨物会社が労働組合法七条に違反したとして右両原告を被申立人として救済を申し立て(北海道地労委昭和六二年(不)第二八号事件)、北海道地方労働委員会は平成元年三月二〇日に下記のとおりの救済命令を発した(以下「初審命令」という。)。
記
1 被申立人北海道旅客鉄道株式会社は、同社に採用を希望している別表第1記載の組合員を、昭和六二年四月一日をもって同社の社員に採用したものとして取り扱わなければならない。
2 被申立人日本貨物鉄道株式会社は、同社に採用を希望している別表第2記載の組合員を、昭和六二年四月一日をもって同社の社員に採用したものとして取り扱わなければならない。
3 被申立人北海道旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社は、上記第1及び第2項を履行するに当たり、就労すべき職場・職種について、申立人らと協議しなければならない。
4 被申立人北海道旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社は、別表第1及び第2記載の組合員が就労するまでの間、同人らが昭和六二年四月一日にそれぞれ上記被申立人らの社員として採用されていたならば得たであろう賃金相当額と申立外日本国有鉄道清算事業団において実際に支払われた賃金額との差額を、同人らに対し、支払わなければならない。
5 被申立人北海道旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社は、本命令受領後、速やかに申立人らに対して下記内容の陳謝文(ただし、陳謝文1は北海道旅客鉄道株式会社、陳謝文2は日本貨物鉄道株式会社とする。)を手交するとともに、同陳謝文を縦一メートル、横一・五メートルの白色木板にかい書で墨書し、上記被申立人らの各本社及び各支社(日本貨物鉄道株式会社にあっては、北海道支社とする。)の玄関正面入口の見やすい場所に、一〇日間掲示しなければならない。
記
陳謝文1
昭和六二年四月一日の採用及び同年六月一日の補充採用に際し、貴組合の組合員を貴組合の組合員であること及び貴組合の組合活動を理由に当社の社員として採用しなかった行為は、今般、北海道地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると認定されました。
ここにその責任を認め、深く陳謝するとともに、今後このような行為を繰り返さないことを誓約致します。
平成 年 月 日(掲示する初日を記載すること。)
全国鉄動力車労働組合
執行委員長 貝澄昭三様
全国鉄動力車労働組合北海道地方本部
執行委員長 棚池正則様
北海道旅客鉄道株式会社
代表取締役 大森義弘
陳謝文2
昭和六二年四月一日の採用に際し、貴組合の組合員を貴組合の組合員であること及び貴組合の組合活動を理由に当社の社員として採用しなかった行為は、今般、北海道地方労働委員会において、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると認定されました。
ここにその責任を認め、深く陳謝するとともに、今後このような行為を繰り返さないことを誓約致します。
平成 年 月 日(掲示する初日を記載すること。)
全国鉄動力車労働組合
執行委員長 貝澄昭三様
全国鉄動力車労働組合北海道地方本部
執行委員長 棚池正則様
日本貨物鉄道株式会社
代表取締役 橋元雅司
6 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。
(二) 原告北海道会社及び同貨物会社は、右救済命令につき被告に再審査の申立てをし(中労委平成元年(不再)第二五号及び同第二七号事件)、被告は平成六年一月一九日に下記のとおりの命令を発した(以下「本件命令」という。)。
記
Ⅰ 初審命令主文を次のように改める。
1 再審査申立人北海道旅客鉄道株式会社は、初審命令別表第1記載の組合員のうち、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(昭和六一年法律第九一号)の失効に伴い平成二年四月二日に申立外日本国有鉄道清算事業団からの離職を余儀なくされた者(以下「清算事業団離職者」という。)であって、本命令交付後同社にその職員として採用されることを申し出たものの中から、日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七号、以下「改革法」という。)第二三条第一項の規定により同社の設立委員の提示した職員の採用の基準等を参考として同社が改めて公正に選考し、その結果採用すべきものと判定した者を、昭和六二年四月一日をもって同社の職員に採用したものとして取り扱い、本命令交付日から三年以内に就労させなければならない。
2 再審査申立人日本貨物鉄道株式会社は、初審命令別表第2記載の組合員のうち、清算事業団離職者であって、本命令交付後同社にその職員として採用されることを申し出たものの中から、改革法第二三条第一項の規定により同社の設立委員の提示した職員の採用の基準等を参考として同社が改めて公正に選考し、その結果採用すべきものと判定した者を、昭和六二年四月一日をもって同社の職員に採用したものとして取り扱い、本命令交付日から三年以内に就労させなければならない。
3 再審査申立人北海道旅客鉄道株式会社及び同日本貨物鉄道株式会社(以下「両会社」という。)は、上記第1項及び第2項による選考の経過、判定の結果及び選考が公正に行われたことについて、それらに用いた資料を添えて、それぞれ、当委員会に報告しなければならない。
4 両会社は、上記第1項及び第2項を履行するに当たり、昭和六二年四月一日をもって両会社の職員に採用したものとして取り扱われる者(以下「採用対象者」という。)の就労すべき職場・職種について、それぞれ、再審査被申立人らと協議しなければならない。
5 両会社は、採用対象者に対して、平成二年四月二日からこれらの者が就労するまでの間、これらの者がその期間についてそれぞれ昭和六二年四月一日に両会社に職員として採用されていたならば得られたであろう賃金相当額の六〇%に相当する額を支払わなければならない。
6 両会社は、本件命令交付後、速やかに再審査被申立人らに対してそれぞれ次の文書を交付しなければならない。
記
文書1
昭和六二年四月一日の採用及び同年六月一日の補充採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合の組合員の一部については、不当労働行為に当たる行為があったと中央労働委員会により認定されました。
今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
全国鉄動力車労働組合
中央執行委員長 三浦隆雄殿
全国鉄動力車労働組合北海道地方本部
執行委員長 棚池正則殿
北海道旅客鉄道株式会社
代表取締役 大森義弘 印
文書2
昭和六二年四月一日の採用においては、当社の職員として不採用とされた貴組合の組合員の一部については、不当労働行為に当たる行為があったと中央労働委員会により認定されました。
今後は、法令を遵守し、正常な労使関係の形成に努めます。
平成 年 月 日
全国鉄動力車労働組合
中央執行委員長 三浦陸雄殿
全国鉄動力車労働組合北海道地方本部
執行委員長 棚池正則殿
日本貨物鉄道株式会社
代表取締役 棚橋 印
7 再審査被申立人らのその余の救済申立てを棄却する。
Ⅱ 再審査申立人らのその余の各再審査申立てを棄却する。
3 国鉄における労働組合の結成状況
国鉄当時には、国鉄の職員等で組織する労働組合としては、昭和二一年二月に結成された国鉄労働組合(以下「国労」という。)、昭和二一年五月に結成された国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)、昭和四三年一〇月に結成された鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)、昭和四六年四月に結成された全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。)、昭和四九年三月に結成された全動労、昭和六一年四月に結成された真国鉄労働組合(以下「真国労」という。)、同年一二月に全施労、真国労等を統合して結成された日本鉄道労働組合(以下「日鉄労」という。)等があったが、このうち動労、鉄労、日鉄労等は、昭和六二年二月に全日本鉄道労働組合総連合会(以下「鉄道労連」という。)を結成した。また、同年一月以降、国労を脱退した者によりブロック等を単位として結成された北海道鉄道産業労働組合(以下「鉄産労」という。)等は、同年二月に日本鉄道産業労働組合総連合を結成した。
全動労は、列車の運転に携わる機関士、運転士、車両検査等に携わる検査係、検修係等動力車に関係のある職務に従事する者によって組織される。
(争いのない事実、《証拠省略》)
4 国鉄改革の経緯
(一) 国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来、経営悪化の一途をたどり、昭和五五年度までの間に数次にわたって経営再建計画を実施したが、事態は好転せず、昭和五七年度末には約一八兆円の累積債務を抱えるに至った。
昭和五六年三月に発足した第二次臨時行政調査会(以下「臨調」という。)は、昭和五七年七月三〇日、「行政改革に関する第三次答申―基本答申―」(以下「臨調第三次答申」という。)を政府に提出した。この答申では、(1) 国鉄の分割・民営化、(2) 再建に取り組むための推進機関(国鉄再建監理委員会)の設置、(3) 新経営形態移行までの間緊急に講ずべき措置(職場規律の確立、新規採用の停止等一一項目の実施等)が提言された。政府は、同年八月一〇日、この答申を最大限尊重して所要の施策を実施に移すこと等を閣議決定した。
その後、政府は、同年九月二四日、五年以内に国鉄改革の実現を図ること等を内容とする「今後における行政改革の具体化方策について」を、また、職場規律の確立等を内容とする「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」を、それぞれ閣議決定した。さらに、政府は、同日、「国鉄の経営は、未曾有の危機的状況にあり、一刻の猶予も許されない非常の事態に立ち至っている。今やその事業の再建は国家的課題であり、政府は、総力を結集してこれに取り組む所存である。」との声明を発表した。
これに伴って、運輸省に国鉄再建緊急対策推進本部が、国鉄本社内に緊急対策実施推進本部がそれぞれ設置された。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(二) 昭和五八年五月一三日、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法(昭和五十八年五月二十日法律第五十号)が成立し、これに基づいて設置された日本国有鉄道再建監理委員会(以下「監理委員会」という。)が設置されたが、同委員会は、同年八月二日、政府に対し、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する第一次緊急提言を提出した。同提言は、国鉄における職場規律の確立、私鉄並みの生産性の達成、効率的な要員配置とするための国鉄職員の多能的運用の必要性、赤字ローカル線の廃止等をその内容とした。
また、同委員会は、昭和五九年八月一〇日、政府に対し、右と同表題の第二次緊急提言を提出した。同提言は、国鉄について分割・民営化の方向で再建の具体策を検討する必要があるとし、生産性及び要員配置を私鉄並みとすること、これを実現するためには国鉄職員の多能的運用が必要であること、地方交通線廃止等をその内容とした。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(三) 監理委員会は、昭和六〇年七月二六日、「国鉄改革に関する意見―鉄道の未来を拓くために―」と題する最終答申(以下「監理委員会答申」という。)を政府に提出した。同答申は、国鉄改革の具体的方法について、(1) 国鉄の旅客鉄道部門を北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の六旅客鉄道会社に分割するとともに、新幹線は別主体が一括保有してこれを旅客鉄道会社に貸し付け、研究所等を独立させる、(2) 昭和六二年度における旅客鉄道事業を遂行するための適正要員規模を一五万八〇〇〇人とみて、これにバス事業、貨物部門、研究所等で必要な二万五〇〇〇人(うち貨物部門は一万五〇〇〇人弱)を加えて、全体の適正要員規模を一八万三〇〇〇人と推計し、さらに、六旅客鉄道会社の適正要員に二割程度の約三万二〇〇〇人を上乗せして、新事業体発足時の要員規模を二一万五〇〇〇人とする、(3) 同年四月時点で見込まれる約九万三〇〇〇人の余剰人員のうち、右適正要員に上乗せした約三万二〇〇〇人を除く約六万一〇〇〇人については、新事業体移行前に約二万人の希望退職を募集し、残りの約四万一〇〇〇人を再就職のための対策を必要とする職員として国鉄の清算法人的組織の「旧国鉄」に所属させ、三年間で転職させる、(4) 貨物部門については、全国一元的な経営体制が適切であると考えられるが、昭和六〇年一一月までに実行可能な具体案を作成する、などというものであった。
これを受けて、運輸省は、昭和六〇年一一月、「新しい貨物鉄道会社のあり方について」と題する書面をもって監理委員会に報告したが、その内容は、「目標とする適正要員数は約一万人とするが、新会社発足時に直ちにこれを実現することには無理があるので、これに二割程度上乗せした一万二五〇〇人程度とし、その差については、合理化の進展、事業活動の拡大、関連事業の展開に逐次充当することとする。」などというものであった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(四) 国鉄は、監理委員会答申を踏まえ、昭和六〇年一〇月九日、右答申に沿う分割・民営化を前提として職員八万六二〇〇人の削減方針を発表し、国鉄の各労働組合に提案した。
政府は、同月一一日、右答申に沿った「国鉄改革のための基本的方針」を閣議決定した。また、政府は、同年一二月一三日には、各省庁が昭和六一年度に職員採用数の一〇パーセント以上を、昭和六二年度かは昭和六三年度当初までは職員採用数の一定割合を下回らない数以上を、それぞれ国鉄から採用すること、特殊法人、地方公共団体、一般産業界に国鉄職員の採用を要請することなどを内容とする「国鉄余剰人員雇用対策の基本方針について」を、それぞれ閣議決定し、内閣官房長官は、同日、政府として公的部門に三万人の雇用の場を確保すると発表した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(五) 政府は、昭和六一年二月一二日に、(1)日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(以下「六一年緊急措置法」という。)の法案を、同年三月三日に(2)改革法、(3)鉄道会社法、(4)新幹線鉄道保有機構法(昭和六十一年十二月四日法律第八十九号)、(5)清算事業団法、(6)日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就職促進法」という。)の各法案を、同月一八日に(7)鉄道事業法、(8)日本国有鉄道改革法等施行法、(9)地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(以下、(2)ないし(9)を併せて「国鉄改革関連八法」という。)の各法案を、それぞれ第一〇四回国会に提出した。
このうち、六一年緊急措置法は同年五月二一日に成立し、同月三〇日に公布(昭和六十一年五月三十日法律第七十六号)、施行された。一方、国鉄改革関連八法は、衆議院の解散によって廃案となったが、同年九月一一日に第一〇七回国会に再提出され、同年一一月二八日に成立し、同年一二月四日(地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律については同月五日)に公布された(新幹線鉄道保有機構法は昭和六十一年十二月四日法律第八十九号、再就職促進法は同日法律第九十一号、鉄道事業法は同日法律第九十二号、日本国有鉄道改革法等施行法は同日法律第九十三号、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律は昭和六十一年十二月五日法律第九十四号)。
(争いのない事実、《証拠省略》)
5 改革法等の成立後採用通知の交付に至るまでの経緯
(一) 国鉄改革関連八法は、右のとおり成立、公布されたが、このうち改革法、鉄道会社法、清算事業団法の関係する規定の内容は前記のとおりである。
また、再就職促進法は、国の任命権者は、清算事業団職員をその職員として採用するよう努めること(一六条)、国は、特殊法人、地方公共団体、主要な事業主団体に対し、清算事業団職員を採用するよう要請すること(一七条ないし一九条)、承継法人は、労働者を雇い入れる場合には清算事業団職員を優先的に雇い入れるようにすべきこと(二〇条)等を定めている。
(二)(1) 昭和六一年一〇月二〇日、衆議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会(以下「衆議院特別委員会」という。)において、橋本龍太郎運輸大臣(以下「橋本運輸大臣」という。)は、「基本計画(後記(六))の定める承継法人の職員数は、鉄道業務そのものからみれば約二割の余分な人員を抱えてスタートする。」と述べた。
(争いのない事実)
(2) 同年一一月二五日、参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会(以下「参議院特別委員会」という。)において、橋本運輸大臣は、次のように述べた。
ア 「採用基準の中に労働組合に加入をしているとかしていないとか、どの労働組合に所属しているか、こういうことを私は取り上げてはならないと思います。これは労働組合法七条の規定からも明らかだと思いますが、どうでしょうか。また新規事業体は、これは民間企業ですから、このことを考慮いたしますと、国有鉄道法に基づく過去の労働処分の有無を基準とすること、こういうことは事実上所属労働組合との関係も明らかになってくるんですが、こういうものを私は基準としてはいけないというふうに考えますが、この点運輸大臣はいかがでしょうか。」との質問に対し、「あくまでもこの基準というものは設立委員などがお決めになるものでありますけれども、私はその内容について、所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならないと思います。ただ、今委員がもう一歩深めて御質問をいただきましたので申し上げるとすれば、その採用基準の中に例えば勤務成績というものを取り上げられることも、それはあり得ると思います。そして、その中における処分歴等も判断要素の一つになることも、それはあり得るかもしれません。しかし、仮にそうした場合でありましても、その職員の採用手続の過程におきまして、いわゆる労働処分というものを具体的に明示するような形で勤務成績をお示しをするようなことはあり得ないと思いますし、あってはならないと思います。」と答弁した。
イ 「改革法二三条の二項によると、設立委員から採用の基準及び労働条件の提示を受けて国鉄は承継法人の職員となるべき者を選定することになっています。そこでお尋ねするんですが、設立委員が国鉄に選定を依頼する形になりますが、その理由は何でしょうか。また、この場合に国鉄の法律上の立場、資格はどのようなものですか。」との質問に対し、「承継法人の職員の具体的な選定作業は設立委員などの示す採用の基準に従って国鉄当局が行うわけでありますが、この国鉄当局の立場と申しますものは、設立委員などの採用事務を補助するものとしての立場でございます。法律上の考え方で申しますならば、民法に照らして言えば準委任に近いものでありますから、どちらかといえば代行と考えるべきではなかろうかと考えております。」と答弁した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(3) 同月二八日、参議院特別委員会は、国鉄改革関連八法の法案採決に際し、附帯決議を行った(以下「参議院附帯決議」という。)。同決議の本件に関連する事項は次のとおりである。
「政府は、本国鉄改革関連八法案の施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。
九 国鉄改革の実施に当たっては、国鉄職員の雇用と生活の安定のため、次の諸点について十分配慮すること。
(一) 各旅客鉄道株式会社等における職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること。」
(争いのない事実、《証拠省略》)
(三) 国鉄は、国鉄改革関連八法の成立を受けて、各承継法人の発足に向けて、その移行のための準備を円滑かつ確実に推進するために、本社に副総裁を長とする移行推進委員会を設け、また、同委員会の指揮の下、各承継法人ごとに設立準備室を設置した。
なお、国鉄において採用基準に基づいて採用候補者名簿を作成するなどの業務は、本社職員局が行った。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(四) 昭和六一年一二月四日、橋本運輸大臣は、鉄道会社法附則二条一項に規定する設立委員として、改革法六条二項に規定する六の旅客鉄道会社及び原告貨物会社(これら七法人を併せて、以下「鉄道会社」という。)に共通する者(以下「共通設立委員」という。)として一六人を、各会社に独自の者(以下「会社設立委員」という。)として二人ないし五人をそれぞれ任命した。関連する設立委員の構成は次のとおりである。
(1) 共通設立委員
斉藤英四郎(経済団体連合会会長)
五島昇(日本商工会議所会頭)
日向方齊(関西経済連合会会長)
片桐典徳(日本民営鉄道協会会長)
松澤卓二(国鉄監査委員会委員長)
亀井正夫(国鉄再建監理委員会委員長)
住田正二(国鉄再建監理委員会委員)
関英夫(雇用促進事業団理事長)
瀬島龍三(元臨時行政改革推進審議会委員)
工藤敦夫(内閣法制次長)
吉野良彦(大蔵事務次官)
永光洋一(運輸事務次官)
加藤孝(労働事務次官)
花岡圭三(自治事務次官)
鈴木俊一(東京都知事)
杉浦喬也(国鉄総裁)
(2) 原告北海道会社設立委員
横路孝弘(北海道知事)
四ツ柳高茂(北海道経済連合会会長、株式会社北海道電力取締役社長)
(3) 原告貨物会社設立委員
長岡毅(全国通運連盟副会長)
根津嘉一郎(鉄道貨物協会会長)
(争いのない事実、《証拠省略》)
(五) 改革法の定めるところに沿って、昭和六一年一二月一一日、六の旅客鉄道株式会社及び原告貨物会社の第一回設立委員会が開催され、新たに新会社に採用される職員の労働条件及び採用の基準が検討され、採用の基準については原案どおり決定されたが、労働条件については基本的な考え方のみを決定し、同年一二月一九日に決定されることとなった。
ここで決定された採用の基準は、次のとおりである。
(1) 北海道旅客鉄道株式会社の職員の採用の基準
「1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。(医師を除く。)
2 職務遂行に支障のない健康状態であること。
なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。
3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。
なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること。
4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二号)第六二条(3)ア)を発令されていないこと。
5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。
6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。
* なお、日本国有鉄道本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を行っている職員からの採用のほか、当社が事業を運営する地域内の業務を担当する地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮するものとする。」
(2) 日本貨物鉄道株式会社の職員の採用の基準
「1 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること。
2 職務遂行に支障のない健康状態であること。
なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的に見て職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること。
3 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。
なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること。
4 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則(昭和六〇年六月総裁達第一二号)第六二条(3)ア)を発令されていないこと。
5 「退職を希望する職員である旨の認定」(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(昭和六一年法律第七六号)第四条第一項)を受けていないこと。
6 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと。
* なお、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。」
(争いのない事実、《証拠省略》)
(六) 昭和六一年一二月一七日、政府は改革法一九条一項に基づき、「日本国有鉄道の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画」(以下「基本計画」という。)を閣議決定し、この中で国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数及び承継法人ごとの数を定めた。それによると、承継法人全体及び原告北海道会社の職員数は、それぞれ監理委員会答申と同じ二一万五〇〇〇人及び一万三〇〇〇人であったが、原告貨物会社の場合、同答申では一万五〇〇〇人弱とされていたのに対し、基本計画では前記の運輸省の報告と同じ一万二五〇〇人とされた。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(七) 昭和六一年一二月一九日、鉄道会社合同の第二回設立委員会が開催され、鉄道会社における職員の就業の場所、従事すべき業務など労働条件の細部が決定され、前記採用基準とともに国鉄に提示された。この労働条件において、有給休暇については、付与日数の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含めると、付与の条件を過去一年間の出勤率八割以上とすることとされ、退職手当については、改革法二三条七項に基づき、退職手当の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含めることとされた。
なお、改革法等施行法二九条一項は、国鉄職員であった者の懲戒処分の取扱いについて、「旧国鉄法第三十一条の規定により受けた懲戒処分及び改革法附則第二項の規定の施行前の事案に係る懲戒処分については、なお従前の例による。この場合において、同項の規定の施行後に懲戒処分を行うこととなるときは、清算事業団の代表者又はその委任を受けた者が懲戒処分を行うものとする。」と定めている。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(八) 昭和六一年一二月二四日、国鉄は、右採用基準に該当しないことが明白な者を除く職員約二三万〇四〇〇人に対し、承継法人の労働条件と採用基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配布し、昭和六二年一月七日正午までに提出するよう示達した。
意思確認書の用紙は、国鉄総裁あてになっており、「私は、次の承継法人の職員となる意思を表明します。」との記載及び「この意思確認書は、希望順位欄に記入した承継法人に対する就職申込書を兼ねます。」との注記があり、第五希望までの承継法人名を記入する欄が設けられており、「記入要領」と題する書面には、「第六希望以下もある場合には、第五希望の下の欄に(中略)記入して下さい。」と記載されていた。
昭和六二年一月七日までに意思確認書を提出した国鉄職員は二二万七六〇〇人で、そのうち承継法人希望者数は二一万九三四〇人であり、就職申込数(第二希望以下の複数の承継法人名を記載している者を含めた総数)は、延べ五二万五七二〇人であった。このうち、原告北海道会社及び同貨物会社への就職申込数はそれぞれ二万三七一〇人及び九万四四〇〇人であった。
基本計画上の要員数及び就職申込数の承継法人別内訳は、次のとおりである。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(九) 昭和六二年一月二〇日、全動労は、国鉄に対し、意思確認書の結果に基づく採用候補者名簿の作成及び提出について、(1) 設立委員会に提出する採用候補者名簿には希望者全員を記載すること、(2) 採用者の年齢制限を五五歳未満とするのは、五五歳以上の労働者に雇用の機会を与えず、これらの者の労働の権利を否定するものであるが、これを絶対的に守るのかどうか明らかにすること、(3) 傷病者について、職務遂行上の支障の有無の判断基準及び判断者を明らかにすること、(4) 当該会社の業務にふさわしい者の判断基準及び判断者を明らかにすること、(5) 国鉄における既存の資料とは職員管理調書を指すのかを明らかにすること、(6) 「労働処分等」を判断基準から除外すべきであるが、これをどのように扱うのかを明らかにすること等を内容とする団体交渉を申し入れた。
承継法人
基本計画
就職申込総数
北海道旅客鉄道株式会社
一万三〇〇〇人
二万三七一〇人
東日本旅客鉄道株式会社
八万九五四〇人
一一万三三五〇人
東海旅客鉄道株式会社
二万五二〇〇人
七万一六三〇人
西日本旅客鉄道株式会社
五万三四〇〇人
八万〇一五〇人
四国旅客鉄道株式会社
四九〇〇人
一万〇八三〇人
九州旅客鉄道株式会社
一万五〇〇〇人
二万九二七〇人
日本貨物鉄道株式会社
一万二五〇〇人
九万四四〇〇人
新幹線鉄道保有機構
六〇人
三万七七九〇人
鉄道通信株式会社
五七〇人
三万一六二〇人
鉄道情報システム株式会社
二八〇人
二万三三三〇人
財団法人鉄道総合技術研究所
五五〇人
九六四〇人
総計
二一万五〇〇〇人
五二万五七二〇人
同月二八日、国鉄は全動労に対し、(1)につき、採用候補者名簿への登載について、設立委員会からその要員数を基本計画のそれと同一にすべきことが指示されているので指示どおり行う、(2)につき、設立委員会の決定した年齢制限なので忠実に実施する、(3)につき、医師の判断による、(4)につき、設立委員会は特に判断基準を明示していないが、国鉄の既存の資料を使用するしか方法はない、(5)につき、職員管理調書は当然判断資料とする、(6)につき、組合所属による差別は考えていない、しかし、労働処分については設立委員会に示すことはしないが、判断資料から除外するものではない、などと回答した。
同年二月五日、国鉄動力車札幌地方労働組合(以下「全動労札幌」という。全動労札幌は昭和六二年三月に全動労北海道地方本部となった《証拠省略》は、道総局に対し、(1) 国鉄の分割民営化の実施に当たり、国鉄労働者の雇用を確保すること、(2) 国鉄の作成する採用候補者名簿には、意思確認書に記載された職員の意思どおり、注釈も順序も付けずに全員登載すること、(3) 参議院附帯決議のとおりの立場で職員の採用、選定に当たること等を文書で申し入れた。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一〇) 国鉄は、主として職員管理調書により職員の勤務状況を把握し、承継法人の職員となるべき者(以下「採用候補者」という。)の具体的な選定作業については、各鉄道管理局の人事課長等が同調書を主たる資料として行った。特に、過去三年間に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者については、明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿の登載者数が基本計画に示された人数を下回る場合においても、同名簿に登載しないとの方針の下に、承継法人別に採用候補者名簿を作成した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一一) 国鉄は、昭和六二年二月七日、鉄道会社の採用候補者名簿に、改革法施行規則一二条二項の「名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料」として各人ごとの職員管理調書の内容を要約した資料のほか、「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」あるいは「選定作業結果」の記載された書面も併せて、各鉄道会社の設立委員会に提出した。
基本計画の要員数、採用候補者名簿に記載された者の数及びその差の承継法人別内訳は次のとおりである。
なお、右「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」には、「在職中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても名簿に記載しなかった。派遣経験者、直営売店経験者、復帰前提休職者など多方面の分野を経験した者については、最大限名簿に記載した。」と、また、右「選定作業結果」には、「北海道、九州にあっては、希望者数が採用予定数を大きく上回る状況の中での選定となったが、一方、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社においては、希望退職及び公的部門の一括選択の進展もあり、同名簿記載数が基本計画で示された数を下回る結果となった。なお、いずれの会社においても、会社の業務の円滑な運営を行っていくために必要な要員は確保されている。」と記載されていた。
承継法人
基本計画
名簿記載者数
差
北海道旅客鉄道株式会社
一万三〇〇〇人
一万三〇〇〇人
〇
東日本旅客鉄道株式会社
八万九五四〇人
八万四三四三人
五一九七
東海旅客鉄道株式会社
二万五二〇〇人
二万一九四一人
三二五九
西日本旅客鉄道株式会社
五万三四〇〇人
五万二九四三人
四五七
四国旅客鉄道株式会社
四九〇〇人
四六一〇人
二九〇
九州旅客鉄道株式会社
一万五〇〇〇人
一万五〇〇〇人
〇
日本貨物鉄道株式会社
一万二五〇〇人
一万二二八九人
二一一
新幹線鉄道保有機構
六〇人
六〇人
〇
鉄道通信株式会社
五七〇人
五七〇人
〇
鉄道情報システム株式会社
二八〇人
二八〇人
〇
財団法人鉄道総合技術研究所
五五〇人
五五〇人
〇
総計
二一万五〇〇〇人
二〇万五五八六人
九四一四
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一二) 昭和六二年二月一二日、鉄道会社合同の第三回設立委員会が開催され、国鉄から、新会社の職員の選定結果等について説明がされた上で、同委員会において、各鉄道会社の採用候補者名簿登載者全員を当該鉄道会社に採用することが決定された。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一三) 昭和六二年二月一六日以降、各鉄道会社の設立委員会は、採用を決定した者(以下「採用予定者」という。)に対し、国鉄を通じて、各設立委員会委員長斎藤英四郎名で、同月一二日付けの採用通知を交付した。これには、「あなたを昭和六二年四月一日付けで採用することに決定いたしましたので通知します。なお、辞退の申し出がない限り、採用されることについて承諾があったものとみなします。」と記載されていた。
採用を辞退しようとする場合は、同年三月一五日までに国鉄を通じて設立委員等に提出することとされた。
一方、採用の決定がなかった職員に対しては、道総局は総局長名でその旨を伝える文書(以下「不採用通知書」という。)を交付した。
別表第1及び同第2記載の本件救済申立て対象者三一三人(以下「本件全動労組合員」という。)は、昭和六二年一月、意思確認書の「希望する承継法人」欄に原告北海道会社又は同貨物会社と記入して国鉄に提出したが、本件全動労組合員は採用候補者名簿に登載されず、両会社の設立委員会委員長名の採用通知は交付されなかった。この結果、本件全動労組合員は全員不採用となった。
北海道における組合所属別の承継法人等への希望者数、採用者数、採用率は次のとおりである。
所属組合
希望者数
原告北海道会社採用者数
(採用率%)
原告貨物会社採用者数
(採用率%)
承継法人等(清算事業団本務を含む)の採用者数
(採用率%)
全動労
一〇一二人
二一一人
(二〇・八)
一七人
(一・七)
二八四人
(二八・一)
国労
五八五一人
二一九三人
(三七・五)
一七一人
(二・九)
二八〇七人
(四八・〇)
鉄産労
二七四八人
一九八〇人
(七二・一)
一四三人
(五・二)
二一七四人
(七九・一)
鉄道労連
八〇一六人
七一六七人
(八九・四)
六五四人
(八・二)
七九六九人
(九九・四)
合計
一七六二七人
一一五五一人
(六五・五)
九八五人
(五・六)
一三二三四人
(七五・一)
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一四) 不採用通知書の交付後、全動労札幌及びその家族会は、道総局に対し、全動労組合員の不採用の理由について追及したところ、道総局は「設立委員の人から言われたから。」と、また、設立委員会側は「国鉄から出された名簿に判を押したんだ。」と答えた。
国鉄は、同年三月一六日以降、各鉄道会社の採用予定者に対し、各設立委員長名の同年四月一日付け配属先の通知書を手交した。これに対し、全動労は、国鉄に対し団体交渉を申し入れ、配属の決定は、本人の意思に反し、所属組合による差別が顕著で不当なものであると主張した。
(《証拠省略》)
(一五) 昭和六二年三月四日、国鉄は、改革法一九条三項ないし五項に基づき、「国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画」(以下「実施計画」という。)を運輸大臣に提出した。同月二〇日、運輸大臣はこの実施計画を認可した。
それによると、国鉄の事業及び業務の大部分は承継法人が引き継ぎ、国鉄資産の大半、長期債務の相当部分を帳簿価により承継し、残りの資産及び債務は清算事業団が引き継ぎ、鉄道会社の設立時に発行する株式は、すべて国鉄が引き受け、これは同年四月一日以降清算事業団に帰属することとされた。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一六) 昭和六二年三月一七日、鉄道会社合同の第四回設立委員会が開催され、各鉄道会社の定款の案、取締役及び監査役の候補者並びに創立総会の日程等が決定された。
同月二三日から二五日にかけて、各鉄道会社の創立総会が開催され(原告北海道会社及び同貨物会社にあっては同月二三日)、設立委員会の右決定のとおり、役員の選任等が行われた。それによると、各鉄道会社の代表取締役及び非常勤役員には国鉄出身者以外の者が多く選任されたが、常勤役員は国鉄の役員又は管理職であった者が大半であった。このうち、原告北海道会社の役員名等は次のとおりであり、常勤役員の場合は一〇人のうち八人が国鉄の役員又は管理職であった者である。
JRにおける役職
氏名
国鉄当時の役職名
(国鉄出身者以外の場合にはその当時の所属等)
代表取締役会長
東条猛猪
株式会社北海道拓殖銀行相談役(元国鉄理事)
代表取締役社長
大森義弘
国鉄営務理事北海道総局長
常務取締役総合企画本部長
清水英朗
国鉄北海道総局副総局長
常務取締役関連事業本部長
毛尾七平
北海道拓殖銀行常務取締役
取締役鉄道事業本部長
庄司和正
国鉄釧路鉄道管理局長
取締役財務部長
日尾満州雄
国鉄北海道総局経理部長
取締役営業部長
坂本真一
国鉄経営計画室計画主幹
取締役運輸部長
小原孝夫
国鉄北海道総局付部長
取締役旭川支社長
武田司
国鉄旭川鉄道管理局次長
取締役(非常勤)
四ツ柳高茂
株式会社北海道電力取締役会長(元国鉄理事)
取締役(非常勤)
金川幸三
社団法人北海道観光連盟会長
監査役
錦見邦彦
国鉄中国地方自動車局長
監査役(非常勤)
武井正直
株式会社北洋相互銀行取締役社長
また、原告貨物会社の役員名等は次のとおりであり、原告貨物会社の常勤役員の場合は一一人のうち六人が、国鉄の役員又は管理職であった者である。
JRにおける役職
氏名
国鉄当時の役職名
(国鉄出身者以外の場合にはその当時の所属等)
代表取締役会長
町田直
株式会社日本航空相談役
代表取締役社長
橋元雅司
国鉄副総裁
常務取締役
岡田昌久
国鉄常務理事
常務取締役
松本洋三
関東運輸局長
取締役
中島啓雄
国鉄本社貨物局審議官
取締役
岩沙克次
国鉄本社運転局保安課長
取締役
後藤寿之
国鉄本社建築課長
取締役
高橋作衛
国鉄北海道総局関東事業部長
取締役
上田久
株式会社日本通運ペリカン部長
取締役
鈴木芳夫
株式会社日本興業銀行広島支店長
取締役(非常勤)
根津嘉一郎
株式会社東武ストア取締役会長
取締役(非常勤)
長岡毅
株式会社日本通運代表取締役社長
監査役(常勤)
高木茂
財団法人日本税務研究センター常任理事
監査役(非常勤)
杉浦敏介
株式会社日本長期信用銀行取締役会長
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一七) 採用予定者は、昭和六二年三月三一日付けで国鉄を退職し、同年四月一日、承継法人の発足と同時に当該承継法人の職員となった。また、同日、国鉄が清算事業団に移行したことに伴い、不採用者は再就職を必要とする清算事業団職員となった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一八) 政府は、昭和六二年六月五日、再就職促進法一四条に基づき、承継法人に採用されなかった清算事業団職員の再就職目標を達成するため、承継法人が職員を採用するときは優先的に清算事業団職員を採用することなど、承継法人、清算事業団、国等の講ずべき措置を定めた再就職促進基本計画を閣議決定した。
原告北海道会社は、これに先立ち、同年四月一三日、職員の募集を行うことを明らかとしたが、その内容は、(1) 募集期間を同月一四日から同月二〇日までとし、(2) 募集対象者を北海道地区に勤務する清算事業団の職員とし、(3) 採用予定者を約二八〇人とし、(4) 採用の基準を、国鉄及び清算事業団在職中の勤務状況からみて当社の業務にふさわしい者であることなどとし、(5) 採用予定日を同年六月一日とするというものであった。
また、原告貨物会社は、同年五月一五日、同じく職員の募集を行うことを明らかにしたが、その内容は、(1) 募集期間を同月一八日から同年六月八日までとし、(2) 募集対象者を北海道地区及び九州地区に勤務する清算事業団の職員とし、(3) 採用予定人員を約五〇〇名とし、(4) 採用の基準を、国鉄及び清算事業団在職中の勤務状況からみて当社の業務にふさわしい者であること、当社の指定する地域で当社の指定する業務に就く意志のあることなどとし、(5) 採用予定日を同年八月一日とするというものであった。
さらに、原告貨物会社は、昭和六三年一二月、(1) 募集期間を同月一九日から昭和六四年(平成元年)一月二三日までとし、(2) 募集対象者を北海道地区及び九州地区に勤務する清算事業団の職員とし、(3) 応募資格等を職務遂行に支障のない健康状態であることなどとし、(4) 採用時の勤務予定地を関東、東海、関西支社とし、(5) 採用予定日を昭和六四年(平成元年)四月一日として、職員の募集を行うことを明らかにした。
(争いのない事実、《証拠省略》)
6 国鉄における労使関係等
(一) ここで前記のとおり臨調の審議の過程で国鉄の分割民営化の考え方が高まってきたころにさかのぼって国鉄の各労働組合の対応、動きを見てみると、全動労は、国民の足である国鉄が、分割民営化により公共の交通機関の役割を果たせなくなるとともに安全性、サービスの低下をもたらし、かつ、国鉄に働く労働者の雇用確保ができなくなるなどを理由として、これに強く反対した。同様にこれらを危ぐした国労、動労及び全施労は、全動労とともに、昭和五七年三月九日、国鉄再建問題四組合共闘会議を結成した。同会議は、国鉄の分割民営化に反対する運動に取り組んだが、その後、後記のとおり、この問題について各組合間で対応に差が生じた。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(二) 昭和五七年初めころ、国鉄が、実際には乗務していないブルートレインの検査係に対して乗務手当を支給していた問題(いわゆる「ヤミ手当」支給問題)、組合員による現場管理者に対する突き上げ等、国鉄の職場規律に乱れがあることがマスコミによって報道され、あるいは臨調、監理委員会等から同様の指摘がされたことから、このような国鉄の職場規律が問題とされ、その是正をめぐり労使間で見解が対立した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(三) 昭和五七年三月四日、運輸大臣は、国鉄に対し、「国鉄の再建のためには、国鉄の労使関係を健全化し、職場規律の確立を図ることが必須の条件である」として、「ヤミ手当、悪慣行全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講ずること」を指示した。これを受けて、国鉄は同月五日、全国の各機関の長に対し、職場規律の総点検及び是正を指示し、さらに、同月一〇日、いわゆるヤミ協定、勤務時間中の組合活動、リボン・ワッペンの着用、呼名点呼、安全帽の着用、突発休等の三一項目、現場協議制度の運用実態等一四項目等、約六〇項目にわたる職場規律の総点検を同月末日までに実施するよう指示した。以後毎年二回、昭和六〇年九月末日までに八次にわたって職場規律の総点検が実施され、その結果、ヤミ手当等の慣行は徐々に解消されたが、是正されない項目もみられ、ワッペンの着用の禁止については、全動労及び国労が分割民営化に反対する運動の中で着用闘争を行ったこともあって、所期の目的を達成することができなかった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(四) 国鉄と各組合との間には、「現場協議に関する協約」があり、同協約に基づき、職場における諸問題を、現場の労使間で協議していた。しかし、昭和五七年七月一九日、国鉄は前記職場規律の総点検の結果現場協議制には開催時間が長時間にわたるなど多くの問題点があるとして、全動労、国労、動労、鉄労及び全施労(動労、鉄労及び全施労の三労組を、以下「動労ら」という。)に対して、協議対象の明確化や開催回数、時間等の制限を内容とする同協約の改定案を提示し、同年一一月三〇日までに交渉がまとまらなければ同協約を破棄すると通告した。
右改定案を受け入れた動労らについては、同日同協約が改定された。一方、全動労は、改定案の内容は団体交渉権の否定につながり、現場協議制度を苦情処理的な協議制度に変更しようとするものであるとして、同改定案に反対し、国労も同改定案に反対したため、両労働組合については、同協定の改定は妥結に至らず、同協約は同年一二月一日失効した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(五) 国鉄においては、昭和五九年二月のダイヤ改正等に伴う合理化により、同年四月一日現在で約二万四五〇〇人の余剰人員が生じた。
(1) 国鉄は、昭和五九年六月五日、退職制度の見直し、休職制度の改定・拡充、派遣制度の拡充という三項目を含む余剰人員調整策を発表し、同年七月一〇日、退職時に五六歳以上の者について特別昇給を行わず、五五歳以上の在職者については定期昇給及び昇格を行わないこと、職員の申出による休職は、退職前提の場合は五五歳以下、復職前項の場合は五〇歳未満であること、一般職員の国鉄関連企業等への派遣(出向)は、三年以内の期間とし、その人選は所属長が決定すること等の細目を各組合に提示した。
これに対し、全動労は、余剰人員調整策は政策的に国鉄の分割民営化の前提条件づくりを目的としたものであり、職員の雇用不安をもたらし、事実上の首切りにつながるものであるとして、反対の態度を表明し、その撤回を求めた。また、国労も余剰人員調整策を認めることはできないとして反対した。
他方、動労らはこの案に同意し、以後組合自ら余剰人員調整策の円滑な実施への協力を組合員に求めた。
(2) 国鉄は、全動労に対し、昭和五九年一〇月九日までに余剰人員調整策について妥結しないと、全動労と国鉄の間で締結されている「雇用の安定等に関する協約」(以下「雇用安定協約」という。)を破棄すると主張し、同月一一日、昭和六〇年一月一一日をもって破棄する旨通知した。雇用安定協約とは、昭和五〇年七月一日に締結された協約であり、「機械化、近代化及び合理化等の実施に当たっては、① 雇用の安定を確保するとともに、労働条件の維持改善を図る。② 本人の意に反する免職及び降職は行わない。③ 必要な転換教育等を行う。」という内容であった。
なお、国労は、昭和六〇年四月九日、国鉄との間で休職、派遣(出向)等の問題について一応の決着をみて、雇用安定協約についても、有効期間を同年一一月三〇日までとする「覚書」を締結した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(六) 全動労は、余剰人員調整策に反対していたが、昭和六〇年七月九日、組合員がいわば定年退職的に辞めており、退職制度について労使で協定する必要があったこと、現場で十分な仕事がないという労働者が多数おり、その改善について組合員から要望が出ていたこと、動労らの組合員から余剰人員調整策に同意して積極的に派遣(出向)に応じることが承継法人等の採用の条件になるのではないかとの宣伝もあり、組合員の間に不安や動揺が生じていたこと等を考慮した結果であるとして、同日、国鉄との間で、休職及び派遣(出向)の決定に対する諾否は本人の自由意思にゆだねることを基本にしつつ、余剰人員調整策に関する協定を締結した。
全動労は、この協定を締結するに当たって、休職及び派遣(出向)について、本人の申出により行うこと、申出を強制・強要しないこと、申出や応諾をしないことを理由に当該職員を不利益に取り扱わないことの三点を国鉄との間で文書で確認した。
この結果、国鉄は、同日、雇用安定協約を同年一一月三〇日まで延長することで全動労と合意した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(七) 国鉄は、本社職員局労働課荻野総括補佐名で地方機関の労働担当課長あてに、昭和六〇年七月一一日付け事務連絡「施設の使用等に関する便宜供与の見直しについて」を発し、「①組合事務所の箇所数等については適正か、②組合掲示板の枚数、大きさ、提示の様子等については適正か、③ガス、水道料金の支払いについては適正か、④便宜供与として認める場合、文書等の提出等により、許可するなど、事務の取扱いが適正に行われているか」などの見直しを指示し、さらに、同総括補佐名で各地方機関の労働担当課長あてに昭和六一年二月一九日付け事務連絡「施設の使用等に関する便宜供与についての取扱いについて」を発し、「①現在組合掲示版として使用している箇所について、業務上使用しなければならない必要性がある、掲示の内容が適当でなく警告しても聞き入れようとしないなど社会通念上移転、撤去を行うべきものについては、相当の手続きを踏んだ上で行い、便宜供与の承認は文書をもって行うこと、②組合事務所については、現在黙示で便宜供与しているものがあるが、便宜供与するに適当と認められるものについては、承認は文書をもって行うこと、③いずれも承認の期限を昭和六二年三月三一日とする」旨を指示した。
そして、国鉄は、現場規律の確立を図るとして、職場規律が国鉄当局の命令・指示どおりに守られない場合には、組合掲示板の使用、組合集会のための施設の使用等を制限又は禁止した。
北海道においても、職場規律の確立を求める監理委員会の第一次緊急提言以降、道総局は、従来全動労に対して貸与していた組合掲示板の数を減らしたり、休憩所や詰所に設置していたテレビ、冷蔵庫等を撤去した。また、乗務中にワイシャツやネクタイを着用しないで開襟シャツを着用した全動労に所属する列車運転乗務員については、その者を本来の機関士の仕事から外し、又は他の仕事に就労させないこともあった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(八) 国鉄は、昭和六〇年一一月一三日、各組合に対し、同月三〇日で有効期間が満了となる雇用安定協約の再締結について、各組合と個別に締結する、有効期間は昭和六二年三月三一日までとする旨提示した。
国鉄は、昭和六〇年一一月中旬ころ、全動労に対して、雇用安定協約の再締結をするに当たって、余剰人員調整策について積極的に推進する旨の意思表示をすること、これを積極的に推進する立場で地方組織を指導すること、組合方針の改善に努め、その結果を報告すること、現場での実施に当たって妨害を一切しないということが確認できる状況を作ることの四条件を提示した。
これに対し、全動労は同年七月九日に国鉄との間で文書を確認した(六)の三点を尊重すべきであることを理由に、この四条件を拒否した。さらに、当局が前記余剰人員調整策では十分な成果を上げていないからといって雇用安定協約の再締結をしないのは不当であるなどとして、同年一一月二八日に「雇用安定協約締結、国家機密法阻止」の二九分間のストライキ(以下「一一・二八スト」という。)を実施した。
このため、国鉄は、全動労の地方組織において、余剰人員調整策に協力的でないこと及び全動労がこの問題を掲げて一一・二八ストを実施したこと等を理由として、全動労との間で雇用安定協約を再締結せず、同年一二月一日以降無協約状態となり、これ以降両者の間で雇用安定協約が再び締結されることはなかった。
なお、国鉄は、動労らとは雇用安定協約を再締結したが、国労とは、従来指導を申し入れていた国労組合員による余剰人員調整策への反対運動である「三ない運動」の中止が徹底していないとして、同年一一月三〇日、雇用安定協約の再締結を拒否したため、同年一二月一日以降国労との間でも、全動労と同様無協約状態となった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(九) 昭和六〇年一二月一一日、国鉄は、昭和六一年度の転職希望者を把握するため、全職員を対象に国の機関及び地方自治体等への転職希望に関する進路希望アンケート調査を実施すると発表した。調査項目には、新事業に対する進路希望が含まれていたこともあって、全動労は、国鉄に対し、文書で団体交渉の申入れを行ったが、その内容は、調査は分割民営化を既定の事実として行われるものであり認めることはできず、単に傾向をみるためのアンケートであるなら、氏名を記載する必要がないなどした上、調査の問題点については団体交渉の場で当局の見解を示すことを要求するとともに、今回の調査を中止するよう主張した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一〇) 昭和六一年一月一三日、国鉄は、各組合に対し、労使共同宣言(以下「第一次労使共同宣言」という。)の案を示して、同意するよう要請した。その内容は、「国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」として、(1) 安全輸送の確保、安全で便利な輸送の提供が国鉄労使に対する国民の信頼の基盤であり、労使は諸法規を遵守し、全力を挙げてこれを実現する、(2) リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整える、(3) 必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進し、鉄道事業の再生、強化を図っていくための新しい事業運営の体制を確立することとする、(4) 余剰人員対策について、派遣制度、退職勧奨等を積極的に推進するなどの項目が挙げられていた。同日動労らは、同宣言に調印した。
これに対し、全動労は、第一次労使共同宣言の内容は、労働者や労働組合の諸権利を放棄するもので、労働側には何も得るものがないとして、その要請を拒否した。国労も全動労とほぼ同様の理由でこれを拒否した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一一) 国鉄では従来から、鉄道管理局地方機関独自にその機関に所属する職員の勤務実態等について、個人ごとに管理台帳(北海道においては職員管理台帳)が作成されていた。第五ないし第八次の職場規律の総点検として、点呼時において全部又は一部の者が返事をしないこと、安全帽の不着用、氏名札の不着用、ワッペンの着用、突発休等がみられたので、国鉄はその指導状況を明確に記録するため、管理台帳に記載し、これを勤務成績に反映させることとしていた。また、国鉄は、これらの職場規律の是正については、個人指導を行うなどしてその徹底を図っていた。しかし、八次にわたる職場規律の総点検を経ても、職員の意識・意欲や管理者の個人把握に問題が残ったこと及び運輸大臣から指摘を受けたことから、国鉄本社は職場規律の総点検の集大成として職員個人の意識・意欲の実態把握を全国統一的に行い今後の職員管理に活用するため、管理台帳に加え、後記のとおり職員管理調書を作成するよう、各鉄道管理局長等に対し指示した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一二) 昭和六一年三月四日、国鉄は、各組合に対し、今後国鉄改革により生ずる余剰人員の雇用の場が地域的に偏在するため、雇用の場に見合った職員配置を行う必要があるので、第一陣として、北海道から約二五〇〇人の職員を東京、名古屋地区中心に、九州から約九〇〇人の職員を大阪地区中心に、広域異動させたいと提案した。これに対し、動労らは同年三月一四日、第一陣の広域異動について了解し、国鉄は、同年三月二〇日から広域異動の募集を開始した。さらに、国鉄は、同年八月一一日に第二陣の広域異動(目標三四〇〇人)を各組合に提案し、具体的要求があれば問題提起するように述べて各組合の協力を求めた。そして、国鉄は動労らとの了解の下に同年八月二〇日から募集を開始した。
全動労は、広域異動では雇用は守れないなどとしてこれに終始反対したが、国労は、同年一一月二二日に至り、広域異動の募集に国労組合員も相当数応募している実態を踏まえ、国鉄と広域異動に関する覚書を締結した。
この二回にわたる広域異動において北海道からは約一七〇〇人(全国では約三八〇〇人)が異動したが、第一次募集(同年三月二〇日から開始)及び第二次募集(同年八月二五日から開始)のそれぞれの状況は次のとおりである。
(1) 第一次募集の応募者一四三八人に対し、発令(同年七月三〇日)を受けた者は一一一七人で、組合所属別の内訳は、国労一五〇人(異動に応じた組合員数の組織組合員数に対する割合は〇・九パーセント)、動労八一九人(同二四・三パーセント)、鉄労七人(同二・三パーセント)、全施労一人(同二・四パーセント)であるのに対し、全動労は皆無であった。
(2) 第二次募集で発令を受けた者の数は不明であるが、同年一〇月一五日現在の応募者は六四八人であった。なお、全国では一三九七人が応募し、その組合所属別の内訳は、国労四六三人、鉄労二八九人、動労一四三人、全施労四八人、全動労一人、その他四五三人であった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一三) 昭和六一年四月、国鉄は各組合に対し、職員七万人を対象に、同月以降おおむね五か月間、一回当たり三日間か四日間の日程で、企業人教育を行うこと、一般職員を対象とする場合は、希望を優先し、勤務成績等を勘案して受講者を決定することを説明した。実際の人選に当たっては、機関長等の現場長の意見も参酌された。
動労らは、企業人教育については全面的に賛意を表し、積極的に対応していくという態度であった。これに対し、全動労は、国鉄に対して、企業人教育は分割民営化を前提とし、本来の目的を逸脱したイデオロギー教育を実施するものであり、希望者を優先としているのも特別の意図があると考えるとして、これに反対する意向を表明し、かつ、その教育の目的を明らかにすること、教育の具体的内容、実施方法、テキスト等を明らかにすること等について団体交渉を申し入れた。
企業人教育の目的は、活力ある経営を通じて鉄道事業の未来を切り開いていくため、職員に企業人としての考え方とその行動力を身に付けさせるという点にあるとされた。また、企業人教育の内容は、企業及び企業人について(討議、部外講師による講習、VTRによる教育)、私たちをめぐる現状分析(討議)、活力ある職場づくり(民間企業の実践例研究、討議、VTRによる教育)、団体行動訓練等であり、実際の受講者数は全国で約五万五〇〇〇人であった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一四) 国鉄は、前記のとおり、昭和六一年五月に六一年緊急措置法が成立したことから、同法に基づき二万人を目標に希望退職の募集を同年六月三〇日から開始した。希望退職に応募した職員は、最終的に三万九〇九二人にのぼり、昭和六二年三月末日までに全員退職した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一五) 昭和六一年六月二四日、国鉄は、「現在三万八〇〇〇人が余剰人員で、そのうち約一万六五〇〇人が派遣・休職の調整策に応じており、現存する余剰人員は約二万一五〇〇人であるが、余剰人員は今後さらに増加することが予想されるので、余剰人員を集中的に配置して有効活用を図っていく。そのため、同年七月から新たに全国統一的に人材活用センターを設置する」旨発表し、同月一日、国鉄は、全国一〇一〇箇所に人材活用センター(以下「人活センター」という。)を設置した。
国鉄は、人活センターへの職員の配置に当たっては、直営売店に従事する者や多能化・レベルアップの教育を受ける者を含め、通常の人事異動と同様、日常の勤務成績等を総合的に判断し、所属長がその権限と責任において適材適所の考え方で行うとした。
人活センターに配属された者の業務は、切符の外商等の増収活動や教育訓練がされることとなっていたが、実際には、北海道においては、ペンキ塗り、構内ごみ拾い、ポイント掃除、ガラス磨き、草刈り等が主に行われ、ほとんど一日中何も仕事がない待機状態にあることもあった。
国鉄は、分割民営化直前の昭和六二年三月上旬に実施した人事異動において人活センターへの担務指定を解き、同時に人活センターを廃止した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一六) 動労は、昭和六一年七月八日から開催された第四二回定期全国大会で、国鉄改革に向け国鉄の分割民営化を進める政府案に修正を求めていく、国鉄の新事業体移行という節目の中で労働組合運動強化のために一企業一組合の結成を目指すなどの方針を決定した。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一七) 昭和六一年七月一六日、動労ら及び真国労の四組合は、国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)を結成し、同月三〇日には国鉄と改革労協は、国鉄改革労使協議会を設置した。同年八月二七日、国鉄と改革労協は、「今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第二次労使共同宣言)」に調印した。その内容は、(1) 鉄道事業のあるべき方向として、民営・分割による国鉄改革を基本とするほかはない、(2) 改革労協は、鉄道事業の健全な経営が定着するまでは争議権の行使を自粛する、(3) 今後の鉄道事業は、その健全な発展を遂げるためには、業務遂行に必要な知識と技能に優れていることはもちろん、企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる職員により担われるべきであり、この考え方に立ち、今後労使それぞれの立場において職員の指導を徹底する、などというものであった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(一八) 全動労は、臨調答申において国鉄の分割民営化の方針が発表された昭和五七年ころから、一貫して国鉄の分割民営化に反対して、ストライキ等を実施した。
北海道においても、昭和五九年四月二〇日に健康保険法及び年金改悪反対の二九分間のストライキ(以下「四・二〇スト」という。)を、昭和六〇年三月五日に国鉄分割・民営化反対の二九分間のストライキ(以下「三・五スト」という。)を、同年八月五日に監理委員会答申抗議の二九分間のストライキ(以下「八・五スト」という。)を、同年一一月二八日に雇用安定協定締結、国家機密法阻止の二九分間のストライキ(一一・二八スト)を実施した。また、同年三月一日から同年四月二六日までは、国鉄分割・民営化反対、八五春闘勝利、六〇・三ダイヤ改悪反対、同年七月一五日から同年八月五日までは、国鉄分割・民営化反対の、それぞれワッペン着用闘争を行った。
国鉄は、北海道の全動労組合員について、昭和五九年八月四日、四・二〇ストに関し減給二人を含む四三人の、昭和六〇年一〇月五日、三・五スト及び八・五ストに関し停職一人を含む八六人の、昭和六一年二月七日、一一・二八ストに関し減給三人を含む八人の処分を通告し、ワッペン着用闘争をした北海道の全動労組合員について、昭和六〇年九月一三日に戒告一一人を含む一八一人の処分を通告した。
なお、動労がストライキを実施したのは昭和五七年一二月までであり、後記職員管理調書の評定対象期間である昭和五八年四月以降は、動労の指令による組合活動で処分通告を受けた動労組合員はいなかった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
7 職員管理調書の作成の経緯等
(一) 国鉄では、各地方機関ごとに独自に職員管理台帳が作成されていたが、国鉄は、改革法による国鉄の改革に先立ち、昭和六一年三月五日、各鉄道管理局長等に対し、「職員管理調書の作成について(通達)」という総裁通達を発出した。
「職員管理調書の作成について(通達)」には、次のとおり記載されていた。
「従来、職員の勤務実態等については、鉄道管理局等地方機関独自にその機関に所属する職員について、個々の管理台帳を作成し、その把握に努めてきたところである。しかし、八次にわたる職場規律の総点検を経ても、なお、職員の意識・意欲にかかわる問題は未だ残されており、現在まで、管理者の個人把握が不十分であったことが明らかとなっている。
このため、今後の取組みとして、第八次職場規律の総点検の結果報告においても、「来年度のしかるべき時期に職員の意識変化を調査する項目を主体として、最後の総点検を実施する…」こととしており、また、同報告に対する運輸大臣談話においても、この点が強く要望されていたところである。
今回、このような経緯を踏まえ、職員個々の実態把握を統一的に行うべく、これまでの地方機関ごとの管理台帳の作成に加えて職員管理調書を作成し、職員の意識・意欲の現状把握を行い、あわせて職員の意識・意欲にかかわる問題について、職場規律の総点検の集大成とする。
なお、各長においては、職員管理調書の結果について、今後の業務運営面、職員管理面においても有効に活用できるよう、その作成にあたって正確な記述がなされるよう指導されたい。」
この総裁通達の実施にあたっては、添付されていた「調査用紙記入にあたっての注意事項」によるほか、調書の作成上の留意点等を記載した記入要領等が作成された。
「調書用紙記入にあたっての注意事項」には次のとおり記載されていた。
「1 昭和六一年四月二日現在の職員(指定職員等、管理甲職員及び医療管理職員を除く)を調査対象とする。(以下省略)
2 調査対象期間は、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとする。
(以下省略)」
各地方機関は、右総裁通達により、統一した様式の職員管理調書を作成し、国鉄は、各地方機関の作成した職員管理調書を本社に集中させ、そのデータをコンピュータに入力して国鉄の職員全体を把握できる体制を整えた。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(二) 職員管理調書の調査項目は、「基本事項」、「特記事項」、「評定事項」の三つに区分されているが、その概要は次のとおりである。
(1) 「基本事項」には、当該職員の勤務箇所名、氏名、職名、年齢、部内資格等を記入することとなっている。
(2) 「特記事項」には、一般処分及び労働処分の種類ごとの回数、時期、また、昇給等に関する項目があり、処分については、「発令日ベースではなく、通告日ベースで記入すること。」とされ、「労働処分については、昭和五八年七月二日処分通知を行った「五八・三闘争」から記入すること。」とされている。
(3) 「評定事項」には、「業務知識」、「技能」、「業務処理の速さ、手際の良さ」、「協調性」、「業務改善」など二〇項目が掲げられ、その有無等を評定することとされている。また、「職場の秩序維持」の項目では、点呼妨害、体操不参加、管理者への暴言等を含む職場の秩序を乱す行為の有無等を、「服装の乱れ」の項目では、リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、あごひも、ネクタイ等について、指導された服装をしているか否かを、「勤務時間中の組合活動」の項目では、職員の組合活動に関する協定所定以外の勤務時間中の組合活動の有無等を、「増収活動」の項目では、この活動に積極的か否かを、「現状認識」の項目では、国鉄の厳しい現状を認識し、業務に取り組んでいるか否かを評定するようになっている。
(4) 評定項目の評価は、三段階評価、四段階評価、五段階評価とがあり、更に「総合評定」の項目において五段階評価により評定することとなっている。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(三) 職員管理調書の第一次評定者はその職員の所属する現場の管理者である区長、駅長等であり、その評価結果に基づいて、国鉄の地方機関等の人事課が最終決定したが、同調書の各項目の評定について、特に判断の基準が示されるようなことはなかった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
(四) 昭和六一年一〇月一六日、国鉄はブロック別総務部長会議を東京で開催し、このうち、北海道、東北ブロック会議では、道総局、青函局、旭鉄局、釧鉄局等の各総務部長を集め、職員管理調書の内容を充実させるために、同月一日現在までの内容を盛り込むという形でデータを最新のものとし、これによって見直した職員管理調書を同月末までに作成するよう指示した。これにより再評定が行われた。
さらに、昭和六二年一月には再々評定が行われた。
(争いのない事実)
8 本件全動労組合員の不採用
昭和六二年一月、本件全動労組合員三一三人は、意思確認書の「希望する承継法人」欄に北海道会社又は貨物会社と記入して国鉄に提出した。
前記のとおり、昭和六二年二月七日、国鉄は、採用候補者名簿を北海道会社及び貨物会社の設立委員会に提出したが、本件全動労組合員は同名簿に登載されておらず、両会社の設立委員会委員長名の採用通知は交付されなかった。
(争いのない事実、《証拠省略》)
9 職員の補充採用
原告北海道会社は、前記のとおり昭和六二年六月一日付けで補充採用を行ったが、この際の組合所属別の応募者数及び採用者数は次のとおりである。
組合名
応募者数
採用者数
全動労
五四四名
六名
国労
一九〇一名
八二名
鉄産労
四〇八名
一五七名
鉄道労連等
九四名
三六名
合計
二九四七名
二八一名
この補充採用において、本件全動労組合員のうち別表第1に掲げる者は全員不採用となった。
なお、原告貨物会社は、前記のとおり昭和六二年八月一日付けで補充採用を行ったが、同年五月から六月にかけての募集に対して北海道から全動労組合員八名が応募したものの、面接の際に北海道地区には採用しないと言われたこともあって、右のうち六名は辞退し、その余の二名のみがそれぞれ同社の関東支社及び東海支社に採用された。
(争いのない事実)
10 組合別組織人員の推移
(一) 昭和六一年五月一日から昭和六二年三月一日にかけての全国における組合別組織人員の推移は、別紙「全国における組合別組織人員の推移」のとおりである。
(《証拠省略》)
(二) 昭和六一年五月一日から昭和六二年三月一日にかけての北海道における組合別組織人員の推移は、別紙「北海道における組合別組織人員の推移」のとおりである。
(《証拠省略》)
三 主要な争点
1 国鉄が行った承継法人の職員の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において組合差別的な取扱いがされたとした場合、設立委員は労働組合法七条一号にいう使用者として不当労働行為責任を負うか。
2 1の場合において、国鉄は組合差別的な募集条件を付加したか。
第三当事者の主張
一 原告らの主張
国鉄が改革法二三条の定める権限に基づき作成した名簿に登載されなかった者の不採用について、設立委員が責任を負う理由はないから、原告らが不当労働行為責任を負う余地はない。
1 改革法は、原告ら新企業体が、国鉄から当然にはその職員の雇用関係を承継することなく、その職員を新規に採用すべきこととし、採用手続上、国鉄、設立委員及び原告らはそれぞれ別個の法主体とした。そして、採用に関する手続を募集、採用候補者の選定及びその名簿の作成並びに採用の決定及び通知に区分し、各段階における手続の主体並びにその権限及び責任を定め、採用候補者の選定及びその名簿の作成については国鉄の責務ないし権限としてこれを行わせることとし、設立委員は右名簿に記載された候補者の中からのみ、新規採用者を決定しうるものとした。すなわち、設立委員は、国鉄により作成された採用候補者名簿が提出された段階で、名簿に記載された候補者の中から採用者を決定することが認められているにすぎず、名簿に記載されていない者を職員として採用することはできない(改革法二三条三項)。これは、設立委員による採用の対象となる国鉄職員に関する勤務関係資料が国鉄当局によって保有され、また、原告らの職員の募集や意思確認等の手続については、短期間に大量の事務を遂行することが必要とされたところから、各職員の勤務の実情を把握していた国鉄に、新企業体別に採用対象となりうる候補者の名簿の作成を行わせることとしたのである。このような改革法の趣旨、規定内容に照らすと、採用候補者選定及びその名簿作成の権限の行使に関する国鉄の地位は、改革法二三条二項により特に付与された公法上の地位であり、その権限の行使は国鉄の専権に属し、設立委員の指揮、監督下にあったわけではないというべきである(この点からみても、設立委員の認識ないし是正権限などを問擬する余地のないことは明らかである。)。設立委員は、採用候補者名簿の作成に関し、あらかじめ、国鉄を通じ、その職員に対し、新企業体の労働条件及び採用の基準を提示し得るのみで、当該名簿の作成、すなわち、採用候補者選定の具体的作業について国鉄に対し指示等を与える余地のないことはもとより、国鉄からその当否について意見を求められる立場にもないから、国鉄の独自の権限に基づいて行うこととされている採用候補者の選定及び採用候補者名簿作成の責任が、原告らの設立委員に帰せられる余地はなく、したがって、設立委員が採用候補者名簿に記載されていなかった者を採用しなかったことについて原告らが不当労働行為責任を負う余地はない。
2 本件命令は、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものであるとして、国鉄は設立委員の補助機関であるとするが、設立委員及び国鉄は、行政組織を構成するものではないから、国鉄が設立委員の補助機関に当たるということはできない。被告は、手続の一連の経過を前提として、設立委員に当該承継法人の職員の募集から採用の決定に至るまでの行為について最終的な権限と責任が与えられていることが認められるとするが、設立委員が原告らの職員となる新規採用者を決定するに当たり「最終的な権限」を有していたとはいえ、改革法が、採用に関する手続段階を区分し、両者をそれぞれ別個、独立の法主体として定めて手続段階別にその権限、責任を両者に分配している以上、被告のように論ずることはできず、明文の規定がない限り、設立委員、国鉄は、相互に他の法主体の行為について責任を負わないというべきである。設立委員と原告らとの間の法律関係についてのみ明文の規定(改革法二三条五項)が設けられ、設立委員と国鉄との関係については同様の規定が設けられていないのであるから、設立委員が国鉄の行為の責任を負ういわれはない。
設立委員が国鉄の行為について責任を負うとするためには、設立委員が国鉄に対し、指揮、監督権を有することが法理上当然の前提となるが、設立委員と国鉄とは、それぞれ別個独立の法主体として権限が定められ、設立委員の国鉄に対する指揮、監督等の権限の存在をうかがわせる何らの法的根拠も存在せず、また、現に、設立委員が国鉄に対し、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成について、指揮、命令等をした事実が存しない以上、設立委員に国鉄の行為の責任が帰属する余地はない。
3 被告は、労働組合法七条一号前段の適用に係る使用者性に関し、「近い将来における労働契約の可能性のある使用者」として原告らに使用者性を認め得る旨主張する。
しかし、労働委員会は救済命令取消訴訟の段階において命令の理由の変更をすることができず、被告の右主張は本件命令の理由の論拠とされていないから、そもそも本件司法審査手続における適法な主張として提出されているとはいえない。
また、本件において、設立委員が採用候補者名簿に登載されなかった者との関係で「近い将来における労働契約の可能性のある使用者」であることを肯定し得る事情にないことは明らかである。
すなわち、改革法二三条による採用手続においては、採用申込希望者は、国鉄に対し意思確認書を提出し、一一の新企業体につき希望順位を決めて複数の企業体を選択してその職員となる意思を表明することとされているのであって、そうすると、国鉄職員は、採用候補者名簿に登載されて初めて採用される可能性のある新企業体が特定されるにすぎず、右名簿に登載された後においては「近い将来における労働契約の可能性のある使用者」として論ずる可能性があり得るとしても、右名簿に登載されなかった国鉄職員は、いずれの新企業体の採用対象者ともなっていないのであるから、原告らと採用希望者との間には、通例の使用者と採用希望者との間に存する特定、具体的な関係は何ら存在せず、したがって、「近い将来における労働契約の可能性のある使用者」として労働組合法七条にいう使用者と認める余地はない。
ところで、最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決(民集四九巻二号五五九頁)は、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条(労働組合法七条)の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」として、労働組合法七条の使用者性を拡張する判断を示している。しかし、本件においては、原告らと採用希望者との間に右のような一般的な労務に対する指揮命令の権限及び行使の実態など存在しないことはいうまでもなく、右判例を援用して原告らの使用者性を認める余地はない。
4 改革法は、国鉄が実質上破産状態にあったため、承継法人を設立し、社員の採用を含めて新たな法律関係を樹立し、特に基本計画において特定されたものを除き、承継法人が過去の国鉄の関係を引き継がないようにすることとし、国鉄の債務は清算事業団が引き継いで負担することとしている。本件のような場合に承継法人に国鉄の行為の責任を帰属させることは、資本充実の原則を害するものであり、右に述べた改革法の趣旨に反するから、改革法は、このような結果を排除する趣旨を含めて採用についての権限及び責任に関する規定を設けたものと解するのが相当である。
旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則二条一項は、運輸大臣はそれぞれの会社ごとに設立委員を命じ、当該会社の設立に関して発起人の職務を行わせると定めており、さらに、会社法による通例の発起人と異なり、設立手続段階において承継法人との間における社員採用の効果を確定し得るよう、設立委員の権限を明定した。
改革法二三条五項は、まさにこの「採用について」「設立委員がした行為及び設立委員に対してなされた行為」の効力が単に設立委員について生ずるにとどまらず、新企業体について確定的に生ずることを限定的に明らかにする趣旨であり、同項により不当労働行為責任が承継法人に帰属するという解釈は牽強付会の論である(そうする趣旨であれば、単に「採用に関してなされた行為」といえば足りることは、立法技術上明らかである。)。
仮に、採用候補者名簿作成に関し、不当労働行為と目すべき行為が行われたとすれば、その責任は、清算事業団が負うべきである。
5 最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」と判示して、採用自由の原則を認め、思想、信条を理由とする雇入れ拒否が違法とならないとしている。改革法二三条による採用手続は、採用の対象を国鉄職員に限定しているものの、新規採用に当たるから、国鉄が採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員によって採用されなかったことが不当労働行為に当たるということはできない。
6 労働委員会が救済命令において雇用に係る法律関係の創設を命ずるなどということは権限外のことであるから、本件命令は、裁量権の限界を超えた救済を命じた点においても違法であり、取り消されるべきである。
7 参加人らは、被告の主張と抵触する黄犬契約(労働組合法七条一号後段)に係る主張をするが、この主張が本件命令の理由と異なることは明らかであり、本件司法審査手続の段階において被告が命令の理由を変更しない以上、理由の変更を決議し得る立場にない参加人らの立場においては、このような主張をすることはできない。
二 被告の主張
1 本件命令の理由の要旨
(一) 原告らの被申立人適格について
改革法が承継法人の職員の採用手続に国鉄を関与させたのは、国鉄改革に当たり承継法人には、その発足と同時に鉄道輸送業務などの国鉄の主要な業務を引き継がせ、その事業を中断することなく継続させることが要請されるという業務上の特殊性が存し、また、経営の破綻状態から脱却させるための国鉄改革を緊急に行うべく、昭和六二年四月一日に新事業体による業務の開始日が法定されているという事情があり、かつ、承継法人の職員の募集の対象者は国鉄職員に限定され、採用者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員自らが採用者の選定を行うことができない事情にあったことから、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものと解するのが相当である。このことは、① 承継法人の職員の募集に当たり、改革法二三条一項が設立委員は承継法人の職員の労働条件及び採用基準を国鉄に提示すると規定し、また、同項が承継法人の職員の募集は設立委員等が「国鉄を通じ」て行うと規定していること、② 実際にも、昭和六一年一二月一一日及び同月一九日に開催された鉄道会社合同の設立委員会において、承継法人の職員の労働条件及び採用基準を決定し、国鉄に提示していること、③ 承継法人の職員の採用に向けて短期間に大量の事務を遂行しなければならなかった事情にあったこと、④ 国鉄の行う前記採用候補者の選定等の事務は、国鉄自体の職員との労働関係に変動をもたらすものでなく、使用者としての立場で行われたものとはいえないことからも是認できる。
そして、改革法等の参議院特別委員会での審議において、同法案を主管する運輸大臣及び政府委員が、「国鉄の立場は、設立委員を補助するもの」との趣旨を繰り返し答弁していること等を併せ考えると、改革法は実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄に行わせたとみられ、かつ、設立委員のなすべき手続の一部をゆだねられた国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位にあったものと解される。
また、国鉄及び設立委員が承継法人とは別個の法主体として構成されているとはいえ、前記承継法人の職員の採用手続は、国鉄を通じての職員の募集に始まり、最終的に承継法人の職員に採用されるという一連の過程を経て完結するものであり、参議院特別委員会において、運輸大臣及び政府委員が、設立委員に対する国鉄の関係をいわば「準委任」ないし「代行」と繰り返し答弁しているのは、単に説明の便宜によるというよりは、国鉄が設立委員の補助機関の地位にあることを平明に説明したもので、国鉄の行為の責任は設立委員に帰属されるべきものと解することができる。
これらのことからすると、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるを得ない。
改革法二三条五項は、商法上の発起人に相当する設立委員の行ういわゆる開業準備行為としての従業員の雇入契約の法的効果を承継法人に帰属させるためであると限定的に解釈することは相当ではなく、採用に関する最終的な権限を有する設立委員が負うべき不当労働行為とされる行為の責任は、同項により、採用に関する設立委員に係る行為の効果とともに承継法人に帰属すると解するのが相当である。
加えて、① 国鉄と承継法人は、改革法施行時を境としてそれぞれ別個の法主体であるとはいえ、国鉄総裁が共通設立委員に加わり、国鉄内に承継法人の設立移行準備室が設置されて設立事務が進められ、承継法人が発足していること、② 清算事業団を唯一の株主として鉄道会社が設立されていること、③ 承継法人の職員の募集対象者は国鉄職員に限定され、その退職金や有給休暇の取扱いはすべて通算され、国鉄当時の非違行為に対する懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができる仕組みとなっていること、① 鉄道会社は、鉄道事業に関し国鉄から人的のみならず物的なもの一切を承継して瞬時たりとも休むことなくその事業を遂行し、その受益は今日に及んでいること、⑤ 国鉄による採用候補者の選定及び設立委員による採用決定によって承継法人は現に利益を受けていること等にかんがみると、本件の場合、通常の会社の解散や新会社の設立とは性格を異にするものであり、原告らに被申立人適格がないとすることは妥当ではない。
本件においては、新規採用の法形式がとられたとはいえ、原告らの職員の採用に当たって募集の対象が国鉄職員に限られる等、典型的な新規採用の場合とはその性質を異にしている。しかも、本件採用対象者の不採用は不当労働行為に該当するのであるから、かかる場合の救済措置として労働委員会が原告らにこれらの者の採用を命じることに何ら問題はない。
(二) 不当労働行為の成否について
① 国鉄改革に係る国鉄の諸施策をめぐり国鉄と全動労との対立が激化していたこと、② 国鉄は、人活センター、転換教育の運用等により、全動労に所属している承継法人への採用について不利になるとの雰囲気を醸成したこと、③ 現場管理者等により全動労からの脱退を慫慂する発言等が行われ、国鉄が全動労を嫌悪していたこと、④ 国鉄が採用候補者の選定を行うに際しては、主に職員管理調書が使用されたが、この職員管理調書の評定項目は、運用いかんで全動労組合員に低い評価が与えられる仕組みとなっていたこと、⑤ 国鉄が採用候補者の選定を行うに当たっては、組合所属いかんを重視し、承継法人等への採用に関し全動労組合員に対して不利な取扱いをしたものと推認される事例が多くみられること、⑥ 採用率において全動労と動労等の他の組合との間に著しい外形的格差が存在するにもかかわらず、その合理的な理由について両会社(原告ら)は具体的に疎明していないこと、⑦ 他方、国鉄改革の過程における全動労組合員の行動には勤務評定に影響を与えることとなったとしても無理からぬ側面があり、また、北海道地区にあっては、両会社(原告ら)の定員枠と原告らへの就職申込数からみて希望者全員が採用される客観的な状況にはなかったこと、以上の事実が認められる。
これらを総合的に勘案すると、国鉄が本件全動労組合員を採用候補者名簿に登載せず、その結果、これらの者を設立委員が原告らに採用すると決定しなかったことは、少なくとも一部の者については組合所属あるいは組合活動のゆえに不利益取扱いを行ったものとして労働組合法七条一号の不当労働行為に当たり、かつ、そのことによって全動労の弱体化を企図したものと認められるから、同条三号の不当労働行為に当たると判断するのが相当である。
(三) 救済方法について
以上のとおり、本件採用対象者の不採用は、本件全動労組合員の少なくとも一部について不当労働行為の成立が認められるものの、右不採用に関して不利益取扱いを受けた者の具体的な特定ができないために、清算事業団離職者であって、本件命令交付後原告らにそれぞれその職員として採用されることを申し出たものの中から、改革法二三条一項の規定により原告らの設立委員が提示した採用の基準等を参考として原告らが改めて公正に選考し、その結果採用すべきものと判定した者を、昭和六二年四月一日をもって原告らの職員にそれぞれ採用したものとして取り扱い、本件命令交付日から三年以内に就労させることを、原告らに命じたものである。
2 本件訴訟において補充した被告の主張
(一) 改革法の立法者意思
改革法案に関する国会審議においては、承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係及び国鉄改革において不当労働行為が行われた場合の法的取扱いが論議の対象とされ、これらに関する立法者意思が幾度となく明確に表明されている。すなわち、設立委員と国鉄との関係については、法案の提出者である政府は、国会審議において、承継法人の職員の採用において基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であること、国鉄は設立委員との関係においては補助的な地位にあることを説明した。また、不当労働行為が行われた場合の法的取扱いについては、参議院特別委員会において運輸大臣が、「所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならない」旨答弁し、さらに、同委員会は、国鉄改革関連八法の採択に当たり、「所属する労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という附帯決議を行った。
このような国会審議における答弁や附帯決議は、右審議前及び審議中の期間において、次のような実情が存在したことから、立法者が、所属する労働組合等によって承継法人への採用について差別が行われる可能性があることを危ぐし、又は強く意識したために行われたものである。すなわち、
(1) 全動労は、国労とともに一貫して国鉄の分割民営化に反対の立場を取り、労使共同宣言への同意・調印を拒否するなどした。国鉄は、右のような動きに対して、職場規律の是正を強く打ち出し、ストライキ等に参加した全動労及び国労の組合員の処分を行った。
一方、動労、全施労は、分割民営化容認の立場に転じ、鉄労、真国労とともに改革労協を結成し、国鉄の求めに応じて第一次及び第二次の労使共同宣言に調印するなど、国鉄改革に協力する姿勢を取るに至った。
(2) 昭和六一年七月、全国に人活センターが設置され、同センターに配属された者は、本来業務との関連性の薄いペンキ塗り、ガラス磨き、草刈り等の業務を行った。人活センターには、余剰人員とされた者が集中的に配属されたことから、同センターに配属されると承継法人に採用されないとのうわさが広まった。全動労組合員の間には、人活センターへの発令が段階的に行われたこともあって、全動労にとどまるかどうかの選択を迫られ、全動労を脱退する者もあった。
また、道総局管内の一〇の機関区及び運転区における昭和六一年一一月一七日段階での人活センターへの組合別配属状況は、全動労二九二人、国労六九人、動労一二〇人、鉄労三人であったが、動労組合員については全員、転換教育を受けさせることを前提として発令されたものであり、これらの者は事実上人活センターには勤務せず、転換教育を行う鉄道学園又は職場に派遣されて転換教育を受け、教育終了後は人活センターへの配属を解かれ、本来業務に戻った。
(3) 国鉄の役員、管理職らは、次のような言動を行った。
ア 昭和六〇年六月に国鉄総裁に就任した杉浦喬也(以下「杉浦総裁」という。)は、同年八月の鉄労定期大会に、国鉄総裁として初めて出席し、翌昭和六一年六月にも鉄労、動労の大会に出席して、国鉄改革の諸施策への協力に感謝する旨のあいさつを行った。
イ 国鉄本社職員局次長は、同年五月に、動労東京地方本部の会議に出席して、「不当労働行為を…うまくやる」と発言した。
ウ 国鉄車両局機械化長は、管下の機械区所長に「…良い子、悪い子に職場を二極分化する」などといった内容の書簡を送付した。
エ 国鉄小樽築港機関区の検修助役は、全動労の組合員に対して、「全動労については採用が危ない。」と発言した。
オ 国鉄岩見沢機関区長は、全動労組合員を区長室に呼び出し、「新会社に残るためには今までのままの考えではだめだ。」などと述べた。
カ 右岩見沢機関区長は、全動労組合員を区長室に呼び出し、「全動労を辞める考えが固まっているか。」などと述べた。
(4) このような動向は国労や全動労の組合員に動揺を与え、全動労にあっては、昭和六一年七月当時組合員数約二三六〇人であったところが、昭和六二年三月時点では約二二二〇人と減少した。
(5) 国鉄は、承継法人の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成に当たって、職員管理調書を資料として用いたが、同調書には組合活動に直接又は間接に関係する項目が多く含まれ、評価者と被評価者が所属組合を異にすれば、評価者の専断となり、公正な評価が行われない危険性が高いなど、公正、適切な資料となり得るかについて疑問があった。
以上のように、改革法の立法に際しては、承継法人の職員の採用について労働組合所属等による差別が行われないことが強く要請され、そのような組合差別には労働組合法七条の規範が及ぶことが当然の前提とされていたのである。
以上に照らせば、承継法人の職員の採用において基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であり、国鉄はこの設立委員を補助する立場にあったこと、承継法人の職員の採用に際して労働組合差別等の不利益取扱いが行われてはならず、行われた場合には労働組合法七条の責任が問われるべきことが、明確な立法意思として表明されているというこことができる。
(二) 改革法二三条の解釈
改革法二三条によれば、承継法人の職員の採用に関する手続のうち、採用候補者の選定及びその名簿の作成の権限は国鉄に付与されているが、採用に関する手続の基本となる採用の基準の決定及びその提示の権限と採用の最終的な権限と責任は、設立委員にある。改革法が承継法人の職員の採用に関する手続に国鉄を関与させたのは、承継法人の発足に当たり鉄道輸送業務など国鉄の主要な業務を瞬時も中断することなく継続させることが要請されていたこと、国鉄改革を緊急に行うべく、新会社による業務の開始日が法定されていたこと、承継法人の職員の募集の対象は国鉄の職員のみで、採用すべき者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員自らが採用すべき者を選定することができないという特殊事情があったこと等によるものであるから、承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係は、本来設立委員のなすべき手続の一部を国鉄にゆだねたものであり、国鉄の立場は採用の最終的な権限と責任を有する設立委員の補助機関の地位にあったものと解するのが相当である。改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、新たな経営体制の確立が必要であるとの認識の下に国鉄改革を実施することとしたのであるから、同法が、経営の将来を左右することとなる職員の採用手続のうち、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成という最も重要な段階に関して、経営を破綻させた国鉄に独自の権限と責任をゆだねたと解することは当を得ない。設立委員は、採用の最終的な権限と責任を有するから、国鉄の行う採用候補者の選定過程において、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう指導監督する権限と義務を有し、国鉄による不当労働行為の行われたことが認められる場合は、少なくとも採用基準に合致するよう、その是正を促し、又は指示する権限と義務を有する。
以上の解釈は、改革法二三条の文理解釈からしても導かれる。すなわち、同条一項は、「設立委員は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行う」とし、また、同条三項は、「設立委員等から採用する旨の通知を受けた者」として、承継法人の職員として採用される者に対する採用通知は設立委員が行うこととしている。したがって、設立委員には採用通知権限が付与されていることになるが、採用通知は採用候補者名簿からの採用者の決定を前提とするから、右権限には、採用候補者名簿から採用者を決定する権限を含むことはいうまでもない。また、同条三項は、設立委員に採用候補者名簿登載者のうちの不適任者と考えられる者については採用決定しない権限を留保しているとみることができる。このように、同条は、承継法人の職員の採用に関する権限と責任が設立委員にあり、設立委員が採用手続の主体であることを示している。
一方、国鉄については、同条二項は、国鉄は設立委員から「労働条件及び採用の基準が提示されたときは、…採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員に提出する」として、文理上明確に、国鉄は設立委員から採用の基準の提示がない限り課せられた採用事務を自ら行うことができないこと、国鉄の行う採用候補者の選定は設立委員の定める採用の基準に従うこと、国鉄が作成した採用候補者名簿は必ず設立委員に提出することが定められている。そうすると、国鉄は設立委員の行う採用行為の一部である内部的事実行為を担当していたにすぎず、設立委員から独立して独自の権限を有し、又は行使する立場にはなかったというべきである。同条一項の「日本国有鉄道を通じ」との表現は、国鉄が独自の代理権限を有するものではなく、国鉄が設立委員の「使者」又は「機関」のような従属的な立場にあることを示しているものと解される。
(三) 改革法と労働組合法との調和的解釈
国鉄による採用候補者の選定と採用候補者名簿の作成の過程で行われた労働組合の所属等を理由とする差別取扱いに関しては、承継法人の職員の採用手続を定めた改革法二三条と、勤労者の団結権等を擁護する憲法二八条、労働組合法七条とが矛盾することのないよう合理的に解釈し、その責任の所在、すなわち、救済を命じられるべき使用者がだれであるのかを適切に定めなければならない。改革法が、労働組合法七条の適用を排除していると解したり、結果的に不当労働行為を容認するのと異ならない解釈を採ったりすることは、憲法二八条及び労働組合法七条を無視する結果となり、極めて不当である。
改革法二三条においては、国鉄による採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成は労働組合法の趣旨に抵触しないで行われるべきであることが当然の前提とされていた。このことは、前記の立法者意思から明白である。そうすると、国鉄が承継法人の職員の採用について設立委員を補助する立場にあり、このような国鉄が、承継法人の採用候補者の選定、採用候補者名簿の作成に当たって、労働組合の所属等による差別的取扱いを行ったことの責任は、設立委員に帰属すると解するのが、改革法と憲法、労働組合法との間の調和的かつ整合的な解釈であるというべきである。
(四) 使用者性
労働組合法七条の使用者としては、近い過去に労働契約上の使用者であった者、近い将来における労働契約の可能性のある者もこれに当たると解される。本件では、国鉄という公社の分割民営化に伴い、その営業がいくつかの承継法人に分割して承継される過程での承継法人の職員の採用に関する労働組合差別の責任が問われているから、設立委員、ひいては原告らが、右の近い将来における労働契約の可能性のある使用者に該当する。ただし、本件においては、採用の過程での労働組合差別は、承継法人(設立委員)によってではなく、国鉄の採用候補者選定、採用候補者名簿作成行為の中で行われているが、国鉄は前記のとおりこれらの行為を設立委員の補助機関として行ったのであるから、その行為については採用者である設立委員が責任を負う。
他方、国鉄が本件組合員らの使用者に該当しないことは、国鉄が、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成を設立委員の補助機関として分担したにすぎないこと、通常の営業譲渡において、譲渡元企業が譲渡先企業への従業員採用問題について使用者となり得るのは、譲渡先企業への採用の問題についてではなく、譲渡元企業からの解雇、退職等をめぐる問題についてであるが、本件で争われているのは後者の問題ではなく前者の問題であることからして明らかである。
国鉄が本件採用問題について使用者たる地位にない以上、清算事業団が労働組合法七条の使用者たり得ないことも明らかである。
(五) 労働組合法七条と採用拒否
(1) 新規採用において労働組合の組合員であること等を理由とする雇入れの拒否が労働組合法七条一号の不利益取扱いや同条三号の支配介入に該当するとの法理は、既に労働委員会の命令例として定着したいわば命令法理を形成しているとともに、学説においても圧倒的多数の支持を受けている。その理論的根拠は、
ア 労働組合法七条一号本文前段は、「労働者が労働組合の組合員であること…の故をもって、その労働者…に対して不利益な取扱をすること」を禁止しているのであって、不利益取扱いから不採用を除外する旨の明示の文言がない上、同条二号のように、明文で「雇用する労働者」と限定していないのであるから、同条一号本文前段を労働契約締結後の段階に限るものと解釈することは、文理として許されない。
イ 労働組合法の労働組合は、使用者による雇入れ後に労働者が加入する企業別組合のみならず、雇入れ以前から労働者が加入している職能別組合、雇用契約の締結以前から労働者が加入していることの多い産業別組合や合同労組等すべての形態の労働組合を含む。労働組合法七条一号は、解雇のみならず雇入れ段階における差別取扱いを禁止しているものと解さなければ、使用者の団結権に対する侵害行為を直接是正し排除するという立法目的は達成できない。
ウ 労働組合法七条一号本文後段は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(黄犬契約)を禁止している。企業が特定の労働組合の組合員を採用の選考において当該組合員でない応募者に比してより不利益に取り扱うことを企図して、しかしこれを応募者等に明らかにしないまま採用活動を行い、労働組合の組合員の一部の者については採用し、残りの者については不採用とした場合、黄犬契約に該当すると解することは困難である。しかし、このような、実質的に黄犬契約と同質の使用者の行為が何らの違法評価も受けないと解することは、到底容認され得るものではない。憲法及び労働組合法の団結権保障の趣旨に照らせば、労働組合法七条一号本文前段は当然にこのような行為を不利益な取扱いとして禁止したものと解さなければならない。
という点にある。
原告らが引用する三菱樹脂事件最高裁判決によれば、採用の自由といえども「法律その他による特別の制限」に服するものとされる。この「法律その他による特別の制限」には不当労働行為救済制度が当然に入る。使用者の採用の自由に付された労働組合法による右の制限が、国鉄改革における採用差別については、改革法によって排除されたものと解することは到底できない。前記のとおり、改革法は労働組合法七条を排除していないのであり、このことは国鉄改革における採用の自由と労働組合法七条の関係についても妥当する。
(2) 改革法二三条においては、承継法人の職員は設立委員によって「採用」されるという形式を定めてはいるが、ここにいう「採用」には、対象が国鉄の職員に限定され、職員の退職金、有給休暇の扱いが通算され、国鉄時代の懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができることとされたこと(日本国有鉄道改革法等施行法二九条一項)、現に稼働していた国鉄の事業はそのまま各旅客鉄道会社等の承継法人に承継され、労使関係を含む人的関係も、少なくとも実態としては、ほとんどそのまま承継法人に承継されていること等の事情が存在するから、通常の企業等における新規採用とは全く異なった手続、実態が存在したのであって、通常の新規採用に関する法理を単純に類推適用して本件採用問題を処理するのは適切でない。
むしろ、本件における採用は、再採用の拒否、営業譲渡等に極めて類似しており、それらに関する法理が援用されるべきであり、営業譲渡の場合に組合所属等を理由に譲渡先会社による採用がされないことは、不当労働行為に該当するものである。
(六) 以上のとおりであって、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成過程における不当労働行為の責任は、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると解するのが相当である。
(七) 一方、本件において、国鉄の行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程で、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことについて、設立委員は、次のような事情から、これを認識し、又は認識し得たものと推認される。
(1) 承継法人の設立委員のうち、共通設立委員であった杉浦総裁は、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿作成を指揮する立場にあり、かつ、随所において、分割民営化に協力的な姿勢に転じた動労等を賞賛するとともに、これに反対する全動労等を嫌悪する旨の意思をあからさまに表明しており、労働組合の所属等による差別的取扱いを容認していたとさえいえるのであるから、国鉄の採用候補者選定の方針及び同名簿作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったことを当然認識していた。
また、全動労は、昭和六二年一月、杉浦総裁に対して、採用候補者名簿には希望者全員を登載すること、当該組合員についても、意思確認書の希望どおり、注釈も順序も付けず採用のための名簿にもれなく登載すること等を記載して、要求書を提出した。
(2) 杉浦総裁以外の設立委員についても、次の事実からすれば、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為が行われたことについて認識し得たものと推認される。
ア 全動労と国鉄当局が当時激しい対立関係にあり、国鉄の幹部等が労働組合を嫌悪する言動を行っていたことについて、マスコミ報道等が相次いだこと、参議院特別委員会において、運輸大臣が「所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならない」旨答弁し、また、「所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」との附帯決議が採択されたこと
イ 全動労は、昭和六二年二月三日、原告北海道会社の横路設立委員あてに、国鉄労働者の進路の選択、決定は、本人の意思に基づいて全員の承継法人への採用を行うこと等を記載した申入書を提出するとともに、口頭で、国鉄から提出された採用候補者名簿を再点検するように求めたこと
ウ 国鉄は、同月七日に設立委員会に採用候補者名簿を提出するに際し、「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」として「在職中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても名簿に記載しなかった。」旨記載された「新会社の職員となるべき者の選定結果について」と題する書面を添付し、同月一二日に開催された第三回設立委員会において、これについて説明を行ったこと
(八) なお、国鉄の行った不当労働行為の責任は当然に設立委員に帰属するのであるから、本件においては、あえて設立委員の行為に着目する必要はなく、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無は問題にならない。(七)の主張は、右立論、すなわち補助機関論を補強するために、設立委員自体の行為を対象として捉えた場合に対応する事情を追加、補足し、予備的に主張したものである。したがって、(七)の主張は本件命令の理由と何ら矛盾するものではない。
3 参加人らの予備的主張について
被告は、参加人らの黄犬契約(労働組合法七条一号本文後段)に係る予備的主張を援用しない。
三 参加人らの主張
1 使用者性
(一) 不当労働行為に対する救済命令制度は、憲法二八条の団結権を実質的に保障するために、労働委員会の救済命令によって、団結権侵害行為を排除し、不当労働行為によって生じた団結権侵害状態を団結権侵害のない状態に原状回復し、団結権保障に基づく正常な労使関係を迅速に実現することを目的とするものであるから、不当労働行為責任は雇用契約の当事者としての契約上の責任とは異なる。したがって、労働組合法七条にいう「使用者」とは、実質的に不当労働行為禁止義務を負うのがだれであるか、不当労働行為によってもたらされた違法状態を迅速かつ的確に排除し、将来の正常な集団的労使関係秩序の形成を図るべき義務を負う者がだれであるかとの観点から決せられるべきである。不当労働行為における使用者が雇用契約上の雇用主に限定されるべきでないという考え方は、判例、労働委員会の命令、学説で既に確立されている法理である。判例及び労働委員会の命令においては、労働組合法七条にいう「使用者」とは、労働者に対して現実的かつ具体的な支配決定することができる地位にある者、また、近い将来における労働契約の可能性のある使用者もこれに当たるとされている。
本件においては、承継法人の職員は国鉄職員の中から採用されることとされていたから、設立委員は採用差別をされた組合員との関係で、右にいう「近い将来における使用者」として労働組合法七条の使用者に当たることは明らかである。
(二) 以上の結論は、実質的同一性の法理によっても導かれる。これは、営業譲渡、会社の解散、新会社の設立、合併等の企業の変動があった場合、従来の事業、業務を引き継いでいる新企業主体が、消滅する会社の従業員のうち特定の者をその組合活動を実質的な理由として採用しなかったことについて、右新企業主体に対してその使用者としての責任を問えないならば、不当労働行為による侵害の回復はできなくなる、企業変動が生じた場合に、実質的に原状回復を最もよくなし得る者に対して救済命令を発することが不当労働行為制度の趣旨、目的に合致するとして、新企業主体に対して使用者としての不当労働行為責任を負わせる必要がある、とする見解である。
同法理は、労働委員会において採用されてきた手法であり、実質的同一性の有無を判断する基準としては、①事業、業務内容、②財産、権利関係、③株式所有関係、④役員、管理職の人的関係、⑤従業員の同一性という要素が挙げられている。
本件における国鉄から承継法人への移行は、形式的には新会社を設立して国鉄の事業等を承継し、国鉄職員から新会社の従業員を採用するという手法を取っているが、国鉄と承継法人との間には、次のとおりあらゆる点で実質的な同一性が認められる。
(1) 国鉄の分割民営化は、国鉄の鉄道事業を全面的に承継法人に引き継ぐ目的で行われたものである。分割民営化の前後で列車の運行は一瞬もとぎれることなく継続しており、鉄道ダイヤや運賃体系もそのまま継承されている。
(2) 承継法人は、国鉄が所有していた列車、駅舎、土地等の鉄道事業に必要な資産と施設をそのまま承継するとともに、国鉄が負っていた債務も承継した。
(3) 株式会社とされた承継法人の株式はすべて、国鉄と法人格を同じくする清算事業団が所有した。
(4) 承継法人の役員も旧国鉄幹部が大部分を占めている。例えば、原告北海道会社の代表取締役社長には、分割民営化当時の国鉄北海道総局長であった大森義弘がそのまま就任している。
(5) 承継法人の設立に当たっては、職員はすべて国鉄職員で構成され、その賃金についても国鉄時代の水準が維持された。また、設立に際して退職金は支給されず、その算定については国鉄時代から通算するものとされた。有給休暇の取得や懲戒処分についても、国鉄時代から通算されることとなった。
(6) 杉浦総裁は承継法人の共通設立委員を兼ねていた。
2 採用差別と労働組合法七条の不利益取扱い
(一) 労働組合法七条一号本文前段の「その他これに対して不利益な取扱をすること」とは、既に雇用関係にある労働者に対する不利益取扱いのみならず、組合所属を理由とする採用拒否もこれに含まれると考えるべきで、このような考え方は学説上の多数説であり、かつ、労働委員会命令においても確立された法理である。
その根拠は次のとおりである。
(1) 労働者にとって企業採用されるかどうかは生活の糧を確保できるかどうかという大問題であるから、採用時における組合差別を禁止しなければ、労働組合法が目的とする労働者の団結権の実質的保障は図られない。
(2) 採用時における組合差別が不当労働行為に当たらないとすると、使用者が採用に当たって禁じられるのは、同号本文後段の黄犬契約だけということになる。しかし、黄犬契約において組合から脱退すれば雇い入れられるのであるから、抑圧される組合活動は将来のものに限られるのに対し、組合活動を理由とする雇入れの拒否は既往の組合活動を問題にする点において、その実害は黄犬契約よりもはるかに著しいから、黄犬契約を不当労働行為として禁止しておきながら、それよりも団結権侵害の程度が大きい採用拒否が不当労働行為とされないというのはいかにも不合理である。
(3) 法律の規定上も、不利益取扱いの具体例として「解雇」が例示されているだけで、採用を除くことが規定されているわけではなく、あえて不利益取扱いから採用差別を除外する理由もない。
(二) ところで、原告らの引用する三菱樹脂最高裁判決によれば、とりわけリストラを始め労働力の流動化の著しい今日において、新規採用を理由に企業者に広範な採用の自由を許すことになり、同判決は先例としての正当性を有しないというべきである。
また、同判決は、労働者の思想、信条の自由及び労働基準法三条が問題となったケースであり、同判決の適用を労働組合法七条にまで拡大することは許されない。労働基準法は、使用者に対する監督、処罰等を通じ、現に使用者に使われている労働者の労働条件の保護を図る法律であって、労働者の団結権の実質的保障を目的とする労働組合法とは、その目的や規制対象を異にするというべきである。
同判決は、使用者の採用の自由について、「法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由」であるとしているにすぎず、憲法二八条や労働組合法が「法律その他による特別の制限」に当たることを否定しているわけではない。本件では、憲法二八条及び労働組合法あるいは改革法は、設立委員の採用の自由に対する「法律その他の特別の制限」に当たるし、承継法人への採用過程における全動労とその組合員に対する不当労働行為は重大かつ執拗なものであって、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるものであることは明白であるから、本件は、同判決の判旨を前提にしても、設立委員の採用の自由が制約を受けるべき事案である。
(三) 改革法は、その規定上、国鉄職員の労働契約締結の申入れに対する設立委員の承諾という意思表示によって労働契約が成立するという法形式を取っているが、このような法形式は、本件に限らず、定年退職後の再雇用の場合や、営業譲渡において譲渡会社の従業員の全員退職と譲受会社への採用という形式を取った場合にも同様に生じるものである。そして、これまでの労働委員会命令や裁判例において、組合所属を理由に定年後の再雇用を拒否した事案や営業譲渡において譲受会社が特定の労働者の採用を拒否した事案では、再雇用の拒否や譲受会社の採用拒否そのものが労働組合法七条一号本文前段の不利益取扱いの禁止に該当するとされている。すなわち、改革法による採用が設立委員の意思表示を待って初めて成立するものだからといって、組合所属を理由に採用を拒否することが不当労働行為に該当しないとはいえないのである。
以上のことは、次の点からも導かれる。
(1) 本件では、採用の対象となるべき者が国鉄職員に限定されていたから、設立委員と組合員との関係は、一般公募による採用とは比較にならないほどの密接なものであったというべきであり、設立委員は私法上の雇用関係が生じる前から労働組合法七条の規制を受ける立場にあった。
(2) 本件においては、承継法人の職員の採用、不採用に当たって組合所属を理由とする差別が行われた場合には、承継法人における併存する労働組合の消長に直接具体的影響を及ぼすという状況にあったのであって、採用応募者の中にたまたま労働組合の組合員が含まれていたという事案とは決定的に異なる。
(3) 設立委員の採用の自由の前提となる承継法人の営業の自由は、改革法により様々な制約を付されており、また、承継法人の職員採用についても、一般企業の従業員の採用とは異なり、① 承継法人の職員は国鉄職員から採用する、② 承継法人の職員数は運輸大臣が定める基本計画による、③ 採用手続に関する事項は運輸省令で定める、④ 承継法人の職員の退職手当については国鉄の在職期間を通算するものとされている。このように、設立委員の採用の自由は法令上の制約を有し、本件採用を一般企業の公募採用と同列に論ずることはできない。
同様のことは、前記のとおり、国鉄と承継法人とが実質的同一性を有することからも根拠付けられる。本件不採用は、国鉄と実質的同一性を有する承継法人が、一定の猶予期間を置いて整理解雇を行ったことと実質的には同じであって、そうすると、承継法人への採用は通常の会社における新規採用とは全く性格を異にすると考えるべきなのである。
(四) 本件採用の法的意味を考える上で決定的に重要なことは、使用者の採用の自由の中核をなす選択の自由、契約締結の自由に関し、承継法人への職員採用における組合差別を禁ずるという立法者意思が明確に示されていることである。すなわち、改革法の国会審議の中で、当時の中曽根総理大臣、橋本運輸大臣、杉浦総裁らは、承継法人の職員採用に当たって所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならないことを繰り返し表明し、また、参議院特別委員会は、昭和六一年一一月二八日、「各旅客鉄道株式会社等における職員の採用及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という附帯決議を行ったのである。
このように、設立委員に対して、職員採用に当たって組合所属や組合活動を理由とする不利益取扱いをしてはならないという法規制をすることは、立法者の明確な意思であり、この限りにおいて、設立委員が雇用契約の相手方となる職員を選択する自由は制約を受けている。したがって、一般の採用に対して労働組合法七条一号本文前段が適用されるかどうかという見解のいかんにかかわらず、設立委員が組合所属を理由に採用を拒否した場合には、組合所属を理由とする不利益取扱いという不当労働行為に該当すると解すべきである。
3 設立委員への帰責
本件において、国鉄が採用候補者の選定及び採用候補者名簿作成の過程で行った不当労働行為について、設立委員が責任を負うことは、次の二つの側面に照らして肯定することができる。
(一) 本件命令は、改革法は実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄に行わせたとみられ、かつ、設立委員のなすべき手続の一部をゆだねられた国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位にあったのであり、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づきそのまま名簿登載者全員を採用予定者として決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断している。この判断は、採用手続の性質(改革法は、承継法人の職員の採用について、採用権者である設立委員が、国鉄に対して、便宜上国鉄職員に対する募集と選別をゆだねるという手続を念のため規定したにすぎないこと)、改革法の規定の合理的解釈(国鉄は、設立委員から採用の基準の提示がない限り自ら課せられた採用事務を行い得ず、採用候補者の選定についても、設立委員の示した採用の基準に従って行わなければならないこと、国鉄職員から国鉄に対して承継法人への採用の申込みがされたことによって、設立委員に対する採用の申込みがされたものとみなされること等)、改革法の立法者意思(改革法についての国会審議における一連の政府答弁や附帯決議等において、承継法人の職員の採用手続につき基本的かつ最終的な責任を負うのは設立委員であり、国鉄は設立委員との関係においては補助者の立場にあることが示されたこと)等に照らして正当である。
(二)(1) 設立委員が国鉄の行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成について、自ら示した採用の基準に従ってこれが行われているか、また、公正にこれが行われているかについて、国鉄を指揮監督する権限を有し、またその義務を負っていたことは、次の点からして明らかである。
ア 改革法二三条には、国鉄の権限は設立委員が作成した採用の基準を遵守する限りにおいてのみ認められること、設立委員は採用についての最終権限を有することが規定され、また、同法施行規則一二条二項には、国鉄は、採用候補者名簿の提出に際し、「当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を添付すべきもの」と規定されている。以上の規定は、設立委員が、国鉄の採用候補者の選定及び採用候補者名簿について、採用の基準に合致しているかどうかを審査する権限を有することを前提としていると解される。
イ 改革法に関する国会審議における政府答弁は、国鉄の立場を「補助者」、「代行」、「準委任」という表現で説明している。これは、立法者の意思が、承継法人の採用に関し設立委員の採用権限と全く別個独立の権限を国鉄に与えるというものではなく、国鉄の行う採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成は、設立委員の有する採用権限の範囲内でその指揮監督の下でされるというものであったことを示している。したがって、設立委員が、承継法人の職員の採用候補者名簿の作成過程で採用基準に反するような事実がなかったかどうかを審査し、仮にそのような事実があった場合にはこれを是正することができるという意味での指揮監督権限を有することは、立法者も当然の前提としていたと解される。
ウ 改革法二三条二項が、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成を国鉄に行わせることとしたのは、設立委員がすべての手続を行うことは不可能であり、募集と人選を国鉄に行わせることが便宜であるからにすぎず、他に国鉄に採用手続の一部を行わせなければならない特段の理由はない。すなわち、右規定は、採用権者である設立委員が有する国鉄に対する指揮監督権限を否定するものではない。
エ 参議院特別委員会において、「各旅客鉄道株式会社等における職員の採用及び選定の方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という附帯決議がわざわざされており、このような決議がされた経過にかんがみれば、設立委員は、国鉄が採用の基準に反する採用候補者の選定や採用候補者名簿の作成を行った場合には、国鉄に対する指揮監督権限を行使してこれを是正し、組合所属による採用差別という結果が発生しないことを防止すべき義務を負っていたと解すべきである。
(2) ところで、設立委員が設定する採用の基準とは、採用候補者の対象たり得るための資格のみにとどまらず、どのような人材を選ぶべきかの選択の基準をも含むものと解される。経営破綻した国鉄を新しい承継法人の下で再出発させるための国鉄改革であるから、採用権者である設立委員としては、新しい承継法人を担う職員として、それにふさわしい者を選定するために、どのような人材を選ぶべきかの選択の基準を設定することは当然であるからである。したがって、国鉄は、設立委員の示した人材選択の基準に従って、具体的な人選を行うための運用基準を定めることができるが、この運用基準は設立委員が示した採用の基準の範囲内でなければならず、それに反してはならないのである。
そして、実際に示された採用の基準のうち、「公正に判断すること」には、組合所属を理由とする差別的取扱いを禁止することも含むと解され、そうすると、国鉄が組合差別的な採用候補者の選定を行った場合には、採用の基準に違反することになる。設立委員は、右のとおり国鉄に対する指揮監督権限を有し、その義務を負っていたから、国鉄に対し、採用候補者の組合所属数、採用候補者名簿登載者の組合ごとの数及び採用希望者に対する名簿登載者の割合について報告を求めることによって、組合所属による差別という採用の基準に反する選定が行われたかどうかを検討すべき義務があり、そのような事実が認められる場合には、国鉄に対してその是正措置を講ずべき義務があった。しかし、設立委員は、昭和六二年二月七日国鉄から採用候補者名簿の提出を受けながら右の措置を執らず、同月一二日開催の第三回設立委員会において、国鉄による組合差別を内容とする職員選定の結果をそのまま是認して、採用候補者名簿に登載された者全員の採用を決定したから、不当労働行為責任を負うというべきである。
4 原告らは、採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成は、国鉄が改革法二三条二項により付与された独自の権限である旨主張するが、改革法の規定の解釈に照らして不合理であり、立法者意思を全く無視する点で失当である上、原告らの主張によれば、改革法によって新たに発足する承継法人の経営の将来を左右することとなる職員採用の中核をなす権限を、経営破綻に至った当の国鉄に全面的に与えたというのは、国鉄改革の趣旨に真っ向から反するものである。
5 予備的主張
(一) 国鉄と設立委員(承継法人)との実質的同一性や補助機関論は採用できないとしても、国鉄の分割民営化と職員採用の過程の事実関係に照らして、設立委員自身が不当労働行為を行ったといえる場合には、設立委員(承継法人)が不当労働行為責任を負うというべきである。
設立委員が、国鉄の行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成に対してこれを審査し、是正する権限を有することは、前記のとおりである。
したがって、① 国鉄が承継法人職員の募集に際して組合からの脱退を事実上の募集条件とした事実、② 国鉄が、全動労を排除する目的で、全動労組合員を排除する内容の採用候補者名簿を作成した事実、③ 設立委員が、①及び②の事実を認識していたか、認識可能であった事実が認められれば、労働組合法七条一号本文後段の黄犬契約禁止規定に該当する不当労働行為の成立が認められるというべきである。
労働組合法七条一号本文後段は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(黄犬契約)を不当労働行為として禁止している。この趣旨は、使用者が労働者に対して、雇用という機会をとらえて団結権の不行使を強要することを禁止するところにあり、この趣旨に照らすと、募集段階で組合からの脱退を条件として示すことも、強制的な形で労働者の団結権を直接侵害する点で、雇用契約の締結に際して組合からの脱退を条件とすることと質的に同一であるから、不当労働行為に当たるというべきである。また、採用に至る募集、選別の過程で、労働組合に加入していることが採用に際して不利な条件となるなどとして、労働組合からの脱退を事実上募集、採用の条件としたという事実がある場合には、たとえ使用者が組合からの脱退を条件として明示しなかったとしても、使用者が雇用という機会をとらえて強制的な形で労働者の団結権を直接侵害することに変わりがないから、やはり不当労働行為に当たるというべきである。
本件において、国鉄が承継法人の職員の募集の過程において、事実上組合からの脱退を募集の条件とした上、全動労を排除する内容の採用候補者名簿を作成したにもかかわらず、設立委員が国鉄に対する審査是正義務の行使を怠った場合には、設立委員自身が組合排除を内容とする違法な採用基準を定め、その結果、団結権侵害という違法な結果を生じさせたものと同視できるから、このような場合には設立委員が黄犬契約の不当労働行為を行ったことになる。
(二) 国鉄が全動労からの脱退という募集、採用の条件を設定し、これを外部に表明したことについて
(1) 労使共同宣言
労使共同宣言のねらいは、これを締結した組合は分割民営化後の承継法人にふさわしい組合であるのに対し、これの締結を拒否した全動労、国労は承継法人にはふさわしくない組合であるとして組合差別を正当化した上で、全動労、国労に対して様々な不利益取扱いを行うことによって、組織を弱体化させ、孤立化させようとするところにあった。実際に、動労、鉄労などは、労使共同宣言に調印することによって承継法人への雇用の確保ができたとか、分割民営化にいつまでも反対しているものは承継法人の職員にはなれないなどという宣伝を職場で大々的に繰り広げ、また、杉浦総裁も、国会審議の中で、労使共同宣言に調印できない、あるいはすることに反対である組合に対しては、信頼を持てないと答弁し、労使共同宣言のねらいを公然と語っているのである。
(2) 職員管理調書
職員管理調書の評定項目は、一見して客観性を欠くものであった上、分割民営化に反対している全動労、国労に所属していれば必然的に評点が悪くなる仕組みになっていた。すなわち、評定項目の「特記事項」には、「労働処分」の項目があり、その調査期間を昭和五八年四月一日以降に限定しているが、この調査期間内であれば、動労がそれまでの方針、闘争戦術を変更したことにより同組合員は労働処分を全く受けていないのに対し、全動労、国労の組合員は多くの労働処分を受けていることに照らすと、この期間の限定は、全動労、国労の組合員に比して動労組合員を有利に扱うことを意図したものであるということができる。また「現状認識」の項目についても、これは結局のところ、分割民営化に対して賛成なのか反対なのかを問うものであり、分割民営化に反対する組合に所属すること自体が現状認識が低いということにならざるを得ないのである。
さらに、国鉄当局は、職員管理調書の作成に当たり、分割民営化に反対する全動労、国労組合員を動労、鉄労組合員に比べて低く評価した上、いったんできあがった同調書について、全動労、国労を脱退した者がいれば再評価して点数を上げる作業を行った。
(3) 人活センター
人活センターに発令された者は、従来使用されていなかったような建物で、乗務員や検修係といった専門職かどうかを問わず、一切の本務から外され、何も仕事を与えられないか、与えられたとしても、その仕事は本務や多能化とは全く無縁のものであって、発令を受けた者は精神的苦痛を受け、技術力の低下を招き、業務手当や超過勤務手当がなくなるといった経済的不利益も受けた。また、道総局管内の人活センター発令状況も、組織人員に対する比率では全動労が圧倒的に高く、しかも、動労組合員に対する発令は、人活センターへの配置が違法であるとして全国各地でその効力停止の仮処分申請がされた後である上、人活センターへの配置といっても直ちに全員が転換教育へ行くため、現実には同センターへ配置されないに等しいものであった。
以上の結果、人活センターに配置された全動労組合員は、全動労にとどまるべきかどうか厳しい選択を迫られるなど大きく動揺し、少なくない脱退者を出すこととなった。
国鉄当局は、人活センターへの配置基準について、公式には、「業務能力、勤務成績、勤務態度、勤務事情、適性等を総合的に判断して決定する」という抽象的な基準しか示すことができず、それ以上に、当該発令を受けた者が他の職員と比較して何故対象とされたかということは一切答えることはなかった。
(4) 血の入替え
国鉄当局は、特に列車の運行上重要な拠点職場で、かつ、全動労の拠点職場でもある機関区、運転区にあっては、全動労組合員を排除しても運行を確保できる体制を作りながら、全動労組合員を排除する手立てを講じた。すなわち、他の機関区、運転区から動労、鉄労の組合員を大量に当該機関区、運転区に転勤させ、その転勤者に転換教育や養成を行い、その後に、全動労組合員を承継法人に採用せず、これを排除した。これは特に札幌運転区と苗穂機関区において顕著であった。
このような大量の異動は、国鉄当局と動労が事前に謀議していない限り実現は不可能である。承継法人設立までに全動労の組織としての影響力を最小限にとどめるようにするという国鉄当局の異常な決意を読み取ることができる。
(5) 脱退工作
昭和六一年になってから、北海道内の各職場において、管理職と動労の幹部による全動労組合員に対する脱退工作が相次いだが、そこでの特徴は、国鉄当局と動労が通謀して、過去に事故、運転ミス、不祥事を起こしたといった弱みのある全動労組合員をねらって、「このまま全動労にいたら採用はない。動労に来たら採用は間違いない。」として雇用不安をあおった点にある。
また、昭和六一年九月には、小樽機関区の岩本検修助役が、全動労組合員に対し、「全動労にいては承継法人への採用は危ない。」と発言し、同年一二月二日には、岩見沢機関区の高橋区長が、全動労組合員大泉忠に対し、「君はこの機関区で何人新会社に残れるか知っているか。新会社に残るためにはいままでの考えではだめだ。」と発言し、同月一二日は、同じく高橋区長が、全動労組合員加藤尚彦に対し、「全動労を辞める考えが固まったか。今決めなさい。」、「情勢はそんなに甘くない。鉄労か動労のどちらかにしなさい。」と発言するなどした。
(6) 国鉄幹部の不当労働行為発言
当時の国鉄の幹部職員は、次のとおり、全動労、国労に対する敵意と不当労働行為意思を公然と明らかにしていた。
ア 杉浦総裁は、昭和六一年一〇月二一日の衆議院国鉄改革に関する特別委員会において、前記(1)のとおりの答弁を行った。
イ 昭和六一年二月二五日、国鉄総裁公館で開催された、動労、鉄労、全施労、国鉄幹部との労使懇談会において、国鉄澄田常務は、「お互い同士的団結を固めたい。」と述べ、また、杉浦総裁は、「総領の甚六と言うが、体の大きいのはなかなか言うことを聞かない。その点、二男、三男、四男は目から鼻に抜ける賢さを持っている。皆さん、親の手に負えなくなった兄貴を、ひとつ導いてほしい。…三兄弟のますますの発展を…。」と述べた。この「総領の甚六」とは国労を指している。
ウ 昭和六一年四月、杉浦総裁は国鉄職員全員に対して手紙を送付し、「この法案に盛られた改革案(分割民営化法案)が今日考えられる唯一最善の道であると確信しています。」、「これまでの労使の壁を越え、この際労使一体となって雇用確保の努力をすることを国民の皆様に示すことが必要と考え、先般、各組合に対し、労使共同宣言の提起もいたしました。」として、今後の労使関係の基本が労使共同宣言にあり、これに反対している全動労、国労組合員に対し、承継法人における雇用は確保されないことを指摘した。
エ 昭和六一年六月二九日に開催された「国鉄改革に取り組む職員の集い」において、杉浦総裁は、このような催しは「国鉄の歴史始まって以来の快挙である」とした上で、「先般より私どもの改革の方向に大変賛同いただいております四つの組合の方々も来ています。(中略)皆様方はここで同士でございます。」と発言し、動労、鉄労、全施労、真国労等との間の改革推進努力に対する親密ぶりを示した。
オ 杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された動労全国大会に出席し、そこで、「私どもは、大変革の事案を完成するために、皆さんにいろいろな問題を矢継ぎ早に提案してきました。三本柱、労使共同宣言、あるいは広域異動の大変な事柄を、動労の皆さんには積極果敢に処置を講じていただきました。この姿勢が私どもにとりましてはありがたく思います。動労の皆さんの“知性と勇気”に心から御礼申し上げます。国鉄の組合の中にも「体は大きいが、非常に対応の遅い組合」があります。(中略)私は総裁としての最大の責務のひとつは、真面目に仕事をしている職員を、一人たりとも絶対に路頭に迷わせないようにすることだと思います。」と発言した。ここでいう「真面目に仕事をしている職員」とは、労使共同宣言を締結し、広域異動など国鉄の施策に協力してきた動労、鉄労等の組合員を指すことは明らかである。
カ 杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された鉄労全国大会に出席し、そこで、「難局を乗り切るためにいろいろな施策、問題提起を矢継ぎ早に行ったが、鉄労のスピーディーな対応には感謝に耐えない。国鉄改革の大きな原動力である。(中略)真面目な職員を一人たりとも路頭に迷わせてはならない。(中略)立派な職員が新会社に行けるようにしたい。」と発言し、鉄労組合員の雇用が確保されていることをほのめかした。
キ 昭和六一年七月三〇日、国鉄総裁室において、国鉄と国鉄改革労働組合協議会(改革労協)との話合いが行われ、同席上で杉浦総裁は、「労使共同宣言に賛同された各組合が、協議会を作られたことは、大変意義深いことだと考えている。これから一層正念場を迎える大事な時期であり、今後も当協議会を通じて意思疎通を図り、改革の完遂に向けて一体となって取り組んでいきたい。(中略)新事業体における新しい労使関係の展望についても、そろそろ考えておかなければならない時期に来ている。皆さん方は、それぞれの立場でリーダーシップを発揮され、将来にわたり我々とお付き合い願いたい。(中略)真面目に働いている職員については、最大限希望をかなえてやりたいと考えている。」と発言した。
ク 昭和六一年八月二八日に開催された全施労の大会に杉浦総裁が出席し、同総裁は、同席上で、「全施労の皆様方の今日の国鉄改革への協力につきまして心から感謝申し上げます。先般来、ご存じのように労使共同宣言に加え、更に昨日の第二次労使共同宣言として生まれたわけであります。このことは、戦後の労働運動の中では正に画期的な内容であることは言を待ちません。将来の健全な企業体を目指して、健全経営が定着するまではスト権を留保するということは、まさに画期的なことではないかと信じています。」と述べ、動労に対する二〇二億円の損害賠償請求訴訟を取り下げる旨報告している。
ケ 昭和六二年二月二日、鉄道労連結成の祝賀レセプションに出席した杉浦総裁は、「今ふりかえってみて本当に皆さんの協力なしに国鉄改革はできなかったと思っている。(中略)二、三日前に職員の意思確認書の集計を発表したが、当初の予想と違った結果が出ている。しかし皆さんとともに歩んできた方向は全然変わらない。新局面に対応して皆さんの努力に応えるように考えていきたい。」と述べたが、その言葉どおり、全動労、国労組合員の配属差別が強行された。
コ 昭和六一年五月二一日、葛西次長は、動労東京地方本部の会議において、「私はこれから、山崎(当時の国労委員長)の腹をぶんなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして…」と発言した。
サ 昭和六一年一一月三〇日付けの「公企労レポート」において、葛西次長は、「改革労組協の人たちがこれまで貢献したこと、協力してきたことに対する“ケジメ”はどういう形になるでしょうか。」との質問に対し、「彼らはいち早く、民間型の労組にしなければならないということで、これまでいろいろと協力してきたわけですが、これらはいずれも新事業体になっても労使関係の要となるべきものです。ですから、民営化になってもすぐに順応できる体制がすでにできているといえるわけで、その意味では他の人たちに比べて一歩も二歩も先に進んでいる。したがいまして、新事業体としてもスムーズにこれを受け入れることができ、この点では改革協(注・改革労協)に入っている組合、又は個人のメリットはあると思います。(中略)したがって新企業体に移る人は、そういう人たちの中から多く生まれてくるという可能性は高いものと思います。」と述べた。
シ 昭和六二年一月二〇日付けの「公企労レポート」において、葛西次長は、「我々として期待したいのは一つの流動化が再編成に向かうという形の中で一つの企業体に一つの組合というものを目指していく方向であってほしいと思います。この期待感から見ておりますと、(中略)改革労組協は完全に多数派を握ったということになります。(中略)二月二日に労連、つまり鉄道労連というものができる。(中略)もし彼らのスケジュールがそのとおりいくことになれば、(中略)会社との関係では一企業一組合というのが実現されるという形になるということで、これは我々としては朗報であり大変結構だと考えているところです。(中略)一方国労の方は少数派になり、修善寺大会で事実上分裂し、昨年の一二月段階から具体的に割れる現象が出てきております。(中略)現在の主流派は共産党、協会派主導といわれておりますが、それに対してそうでない人たちがあるわけで、この二つの存在を無視することはできません。それで共産党、協会派とたもとを分かった人たちというのは物の考え方から見ると鉄道労連、今の改革協の考え方に比較的近いわけですから、そういうところとなるべく手を握りながら一つの方向を目指してもらうことができるなら非常に良いことだと思っております。」と発言した。これは、承継法人の採用に当たって、組合間差別があり得ることを示唆したものにほかならない。
ス 昭和六一年五月、国鉄車両局機械課長岡田圭司は、各機械区所長に対し、「国鉄改革を完遂するには、職員の意識改革が大前提である。」、「自分の機械区(の国労)は自分の責任においてつぶすのだという居直りが必要不可欠である。」、「いま大切なことは、良い職員をますます良くすること、中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むことなのです。そして、良い子、悪い子に職場を二分化することなのです。」と述べた。これは、分割民営化に反対していた全動労、国労を弱体化させるとともに、全動労、国労に残った組合員は「悪い子」として排除していくという考え方を示したものであった。
(7) 以上の事実から明らかなとおり、国鉄は、国鉄の分割民営化の過程で、分割民営化に協力しない労働組合は承継法人に入らないという立場を公然と表明して、労働組合の変質を迫り、労働者間に、全動労に所属すれば不採用になるとの不安感を醸成した上で、その心理的圧力を利用して個別に「全動労から脱退して動労、鉄労へ加入すること」を迫ったのである。このことに照らせば、国鉄が承継法人の職員の募集及び選定に際して、全動労からの脱退を、採用候補者名簿登載及び採用の条件とするという基準を設定したことは明白である。「全動労からの脱退」という募集、採用の条件は、公然と外部へ表明されていたのである。
そして、実際に行われた採用候補者名簿への登載と採用の結果は、全動労組合員についてはその採用率が著しく低く、これとは対照的に、動労組合員のほぼ一〇〇パーセント採用されたことにもかんがみれば、前記(一)①及び②の事実があったことは疑う余地がない。
(三) 設立委員の認識について
(1) 全動労、国労の組合員の人活センターへの配属問題については、法案審議の段階で裁判も提起されており、衆参両院の委員会においてそれが組合所属による差別的取扱いであるとの追及が繰り返しされていたこと、同センターの実態は、改革法成立前から新聞等で広く報道されており、これを見れば、同センターが国労、全動労の組合員を排除する目的で設置、運用されたものであることが分かること、職員管理調書が、全動労や国労の組合員を殊更不利益に取り扱う仕組みになっていたことも、既に国会審議の段階で明らかとなっていたこと、前記のとおり、杉浦総裁以下の国鉄幹部は、全動労、国労に対する敵意をむき出しにして、不当労働行為の意図を公言していたこと、以上の事実からすれば、設立委員が、国鉄の行った不当労働行為の事実を知らなかったなどということはおよそあり得ない。
(2) 設立委員が右事実を認識していたことは、次の点からしても明らかである。
ア 共通設立委員はいずれも国鉄の内情に精通しているか、国会審議で問題とされた国鉄の不当労働行為を十分に知り得る立場にいたものばかりである。
イ 前記のとおり、全動労、国労に対する敵意をむき出しにしていた杉浦総裁が、共通設立委員を兼ねていた。同総裁も共通設立委員に就任した直後に自らを二重人格と称し、また、第三回合同設立委員会の後には、採用候補者名簿を「厳正かつ慎重にご検討いただくとともに、ご承認いただいたことに対して、設立委員の皆様にまずもって感謝申し上げる」との談話を発表している。
すなわち、全動労、国労に対する不当労働行為を実行した国鉄の最高責任者が、設立委員に採用候補者名簿を提出し、かつこれを承認したことになる。
ウ 設立委員の亀井正夫は、国鉄再建監理委員会の委員長を務め、かつ共通設立委員会の委員長代理にも就任しており、国鉄の分割民営化推進の責任者というべき立場にあった。
同人は、「知識」昭和六二年五月号において、「国労なんかの綱領を読むと、社会主義革命をやるために労働運動をやると書いてあります。今、資本主義社会では労働者は搾取されている、だから自民党なり政府や国鉄の幹部の言うことはすべて反対するという考え方でしたから、サービスがよくなるはずがありません。根本的に考え方を変えてもらう必要がありました。」と述べ、昭和六一年六月二九日に開催された「国鉄改革に取り組む職員の集い」に、日本国有鉄道再建監理委員会委員長の肩書で、「きょうの熱意をもとに国鉄改革の実現に向けて、ますますご活躍されることをお祈りいたします。私も心からの声援を送りたいと思います。」とのメッセージを送り、さらに、「文芸春秋」昭和六〇年九月号において、再建監理委員会の委員長として国鉄分割民営化にこだわった理由として、「国労と動労を解体しなければダメだ。戦後の労働運動史の終焉を国鉄分割によって目指す」といった本音を何度か語ったことがあると述べた。
また、昭和六〇年七月三〇日の読売新聞には、同人が、国鉄幹部に対し、組合対策には分割民営化しかない、がんばりましょうやと話しかけたことが報じられている。
エ 共通設立委員の住田正二は、承継法人の発足後、東日本旅客鉄道株式会社の社長に就任したが、昭和六二年八月六日に開かれた東鉄労の大会で、「今なお民営分割反対を叫んでいる時代錯誤の組合がある」、「名実ともに東鉄労が当社における一企業一組合になるようご援助いただくことを期待し」などと述べた。
オ 共通設立委員の瀬島龍三は、国鉄の分割民営化について、「週刊サンケイ」昭和六二年八月二〇、二七日合併号のインタビューで、国鉄は、「このままでは国民から信頼される国家の輸送機関として成り立たないということで民営化したわけです。」と述べた。
(四) 以上のとおりであって、前記(一)の①ないし③の各事実はいずれも認められる。
第四当裁判所の判断
一 新規採用と不当労働行為
1 採用の自由と団結権の保障
労働組合法七条一号が新規採用と不当労働行為についてどのように規定しているかを考えるために、まず、採用の自由と団結権の保障の関係について検討する。
憲法は二二条、二九条等により財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由を基本的人権として保障しており、採用の自由についてもその一環として保障している。他方、憲法二八条は団結権を保障している。そこで、採用の自由の保障と憲法二八条による団結権の保障との間の調整が問題となる。憲法二二条一項は「公共の福祉に反しない限り」職業選択の自由を有すると規定しているから、団結権を保障するために法による規制として使用者に対して採用に関する行為を不当労働行為として禁止することは一般論として憲法の許容するところであるが、採用の自由も基本的な自由であるから、立法者は、労働組合法をもって採用に関する行為を不当労働行為として禁止するに当たり、採用の自由の保障と団結権の保障とを調和させるために、採用に関するいかなる行為を不当労働行為として禁止する必要があるか、どのような要件の下に不当労働行為として禁止するか、その行為を不当労働行為として禁止することにより企業が事業を遂行する上でどのような影響を受けることになるか、それによって経済活動が阻害されないか、禁止の目的及び必要性と採用の自由を制約する程度との間に権衡が取れているか等の観点から検討し、比較考量を行って法規制の内容を決定することになる。これは法律をもって憲法の保障する基本的な自由と労働者の権利の調整を行うことであるから、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である国会が決定すべきことであり、採用に関してどのような要件の下にいかなる行為を不当労働行為として禁止するかは法律により明確に規定されることを要する。採用の自由は憲法の保障する他の基本的人権や基本原理との間でも調整が問題となるが、思想・信条の自由、平等原理との調整については、労働基準法三条、四条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律六条ないし八条と、国家公務員法二七条を受けた同法四六条、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律五条とを対比すれば、立法者が採用の自由を制約する必要があると判断した場合には明文の規定をもってこれを行っていることが明らかである。
立法者が労働組合法七条一号を規定するに当たって行った比較考量の中身を知る上で手がかりとなるのは、最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁)である。この判決は、労働組合法七条について判示しているものではないが、企業者が契約締結の自由を有し、いかなる者を雇い入れるかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができ、特定の思想、信条を有することを理由にその者の雇入れを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないとし、思想、信条を理由とする雇入れの拒否をもって直ちに民法上の不法行為とすることができず、これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできないとし、企業者が、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではないとし、法が、企業者の雇用の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度をとっていると判示している。
憲法二八条による団結権の保障の趣旨からすれば、労働者が労働組合の組合員であること等を理由として(決定的動機として)採用しないことを不当労働行為として禁止する必要性は肯定できるが、その反面、使用者の内心にとどまるものであってもその労働者が労働組合の組合員であること等を理由として不採用とすることは許されないこととなるから、採用の自由は大きな制約を受けることになる。禁止の目的及び必要性と採用の自由を制約する程度との間に権衡が取れているかの判断、比較考量が不可欠となる。採用の自由と思想・信条の自由、平等原理との調整に関する前記の法律の規定、右最高裁判所判決の趣旨にかんがみれば、労働組合法七条についても、既に雇用関係上の一定の地位にある者と雇入れの段階にある者とを区別し、両者の間に類型的な差を設けることも立法裁量として十分あり得ることに注意しなければならない。したがって、立法者が、労働者が労働組合の組合員であること等を理由とする不採用を不当労働行為として禁止することとしたか否かは、労働組合法七条一号の文言上どのように規定されているかによって判断することを要する。
次に労働組合法七条一号の文言に即して規定内容を検討する。
2 新規採用と不当労働行為
労働組合法七条一号は前段において「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること」と規定し、後段において「又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」と規定し、両者を択一的に規定しており、前段が採用についての差別的取扱いに何ら言及していないのに対し、後段が採用に関する規定であることは明らかであり、それらの内容は既に雇用関係上の一定の地位にある者についての規定と雇入れの段階にある者についての規定とに区分、対応しているのであって、仮に前段の不利益取扱いに不採用も含まれるとすれば、後段は前記のような雇用条件を定めるという労働組合敵視の露骨な行為類型だけをわざわざ取り出して規定したことになるが、後段でここまで明記しながら、前段では不採用について明示的に規定しなかったことがいかにも均衡を失することになる。したがって、同号は労働契約締結前の段階と締結後の段階とを意識的に区別したものであり、前者については、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(同号後段)だけが不当労働行為を構成するものとし、同号前段の規定は労働契約締結後の段階を対象とするものと解するのが相当である。同号後段の趣旨は、労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを内容とする特約は公序良俗に反して無効であるが、それが不当労働行為であることをも明らかにして労働委員会による救済を受けられるようにすることにあり、労働者に契約をもって前記の内容を強制することが憲法の保障する団結権を侵害するものとして無効となることとしているのであり、ここに法の趣旨が表われていることに注意すべきである。すなわち、同号後段の趣旨は、使用者が自らの採用の自由の行使にとどまらず、相手方に労働組合に加入しないように働きかけ、その結果労働組合に加入しないことを約束させることが、相手方に不当な制約を課し、もって団結権を侵害するものであるとして、これを禁止することとしたことにあると解するのが相当である。労働者が労働組合に加入しないこと等を雇用条件とすることは、使用者が労働契約を締結しようとする者に対して採用するための代償条件として、労働組合に加入しないよう働きかけることにほかならないのであり、使用者の組合嫌悪の意思が明確に外部に表示されるにとどまらず、さらに、労働契約を締結しようとする者に対し、採用する、しないを突きつけて労働組合に加入しないこと等を約束させようという積極的な行為態様である点で、団結権の保障を著しく侵害するものであるから、単なる採用の自由の発現にとどまらないものというべきである。採用の自由は営業の自由の一内容であり、営業の自由の中でも基本的な自由であるから、労働組合法七条一号において既に雇用関係上の一定の地位にある者に対する不利益取扱いの禁止と異なる要件を定めることには合理性があり、労働組合法七条一号の文言に照らし右のように解するのが相当である。なお、採用の自由と団結権の保障の調和の仕方はこれだけに限定されるものではなく、合理的な内容のものである限り、別の内容を規定することは立法裁量の発現として可能である。
右のように解するとすれば、組合員でないことを募集条件に掲げた上で組合員を不採用とすることも、労働組合法七条一号後段に準じ、許されないものと解するのが相当である。労働組合法七条一号後段は前記のような雇用条件を付して雇用した場合を直接の対象として規定しているが、組合員でないことを募集条件に掲げた上で採用する場合、さらには、組合員でないことを募集条件に掲げた上で組合員を不採用とする場合にも、前記と同様に、使用者の組合嫌悪の意思が明確に外部に表示されるにとどまり、さらに、労働契約を締結しようとする者に対し、採用する、しないを突きつけて労働組合に加入しないこと等を約束させようとしたり、労働組合からの脱退を余儀なくさせるという積極的な行為態様である点で、団結権の保障を著しく侵害するものであり、これに対する救済の必要性はこのような約束を受け入れた者だけでなく、圧力に屈しなかったために不採用となった者についても存するということができるからである。これに対し、使用者の組合嫌悪の意思が外部から推断できるというだけでは、組合員でないことを雇用条件又は募集条件としたものと認めるに足りないから、使用者の組合嫌悪の意思が認められる場合において組合員が不採用とされたときであっても、このような場合が労働組合法七条一号後段による禁止の対象となるということはできない。このような場合まで労働組合法七条一号後段による禁止の対象に含まれるとすることはこの規定の文言に照らして無理があり、労働組合法七条一号前段にいう不利益取扱いに不採用が含まれると解することと同じこととなるから、右のように解するのが相当である。
したがって、新規採用は、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(一号)に当たる場合を除き、不当労働行為に該当せず、労働者の再採用の拒否、営業譲渡等の場合は、既に存する労働契約関係における不利益取扱いとして不当労働行為該当性を肯定することができるか否かの問題として検討すべきである。
二 設立委員の採用に関する行為の法的性質
改革法は、国鉄による鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処すべく、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな効率的な経営体制を確立するための国鉄の抜本的な改革に関する基本的な事項について定めることとしており(一条)、これを受けて、同法一九条は、運輸大臣は、国鉄の事業等の承継法人への適正かつ円滑な引継ぎを図るため、閣議の決定を経て、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め(一項)、その基本計画においては、国鉄の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数について定めることとしている(二項三号)。右のとおり、承継法人の職員については、承継法人に引き継がせる事業等、承継法人に承継させる資産、債務、権利、義務と区別されているのであって(同条二項一号、二号、四号、三項から四項までと対比)、事業等の引継ぎについては、同法一九条五項の認可を受けた実施計画(承継計画)において定められた国鉄の事業等は、承継法人の成立の時において、それぞれ、承継法人に引き継がれるものとされ(同法二一条)、権利及び義務の承継についても、承継法人は、それぞれ、承継法人の成立の時において、国鉄の権利及び義務のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継することとされているのに(同法二二条)、承継法人の職員については、設立委員が承継法人の職員の募集、採用を行う等の採用に関する規定が手当てされている(同法二三条)。そして、同法一七条は、国鉄の改革の実施に伴い一時に多数の国鉄の職員が再就職を必要とする事態を想定し、同法一五条は、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだ後に清算事業団に移行し、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行うこととしている。
改革法の右各規定と同法二三条とを併せて考えれば、改革法は、前記の国鉄改革の目的のために、承継法人の職員については国鉄の職員で承継法人の職員となることを希望する者をそのまま承継せず、相当と認められる人員数に絞り込むこととし、他方、国鉄の職員で承継法人の職員に採用されなかった者が職を失う事態に備えて清算事業団に職員の再就職の促進を図るための業務を行わせる措置を執ったものであるから、国鉄の職員で承継法人の職員として働くことを希望する者であっても承継法人がその全員を承継することを想定しているわけではないことは明らかであって、国鉄の職員で承継法人の職員として働くことを希望する者の意思にかかわらず、採用を決定する側の一方的な判断で、採否を決定することを規定しているものであり、しかも、その判断次第で採用されない者が多数生じることを想定しているというべきである。これは要するに、改革法が承継法人の職員の採用については専ら採用を決定する側に自由があると規定していることを意味するものであるから、同法二三条はこれに基づく採用予定者の決定につき採用を決定する側に採用の自由を付与したものと解するのが相当である。この点が核心であり、承継法人の職員の採用の対象がすべて国鉄の職員であり、国鉄の職員の立場からすれば採用されないことが解雇されるに等しい実質を持つことや、鉄道事業を構成する資産等が承継法人に承継され、その面では営業譲渡の実質を有することによって右の判断が左右されるものではない。このように採用の自由が確保されている以上同法二三条に基づく採用を法的に新規採用と表現するに特に問題はない。同法二三条は、設立委員が承継法人の職員の募集、採用を行うこととしており、かつ、設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって附則第二項の規定の施行の際現に国鉄の職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用されることとしているのであって、これは、同法二三条による採用を新規採用として行うものとする趣旨であると解するのが相当である。
三 改革法二三条に基づく採用と採用の自由
改革法二三条がこれに基づく採用候補者の決定につき採用の自由を付与したものと解するのが相当であり、その意味で新規採用に当たることは右に述べたとおりであり、設立委員は採用予定者の決定につき採用の自由を有し、国鉄も採用候補者の選定及び名簿の作成に当たり採用の自由の実質を有するが、前記の改革法の国会審議における運輸大臣の答弁や参議院附帯決議の内容に《証拠省略》を併せて考えると、国会の審議の際に、改革法二三条に基づく採用について、併存する組合のうち、国鉄改革に反対した組合の組合員よりも国鉄改革に賛成した組合の組合員を優先的に採用候補者として選定し、さらには採用予定者として決定してはならないという立法趣旨が明確に付加され、採用の自由に一定の制約が加えられたものと解するのが相当である。したがって、設立委員も国鉄も採用の自由(又はその実質)を有するが、その採用の自由は国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていたというべきである。
採用の基準の内容に組合差別を織り込むことができないことは次の点からも肯定することができる。すなわち、改革法は、設立委員が採用の基準を定め、これを国鉄の職員に提示することを規定しており、採用の基準を国鉄の職員に提示することは、人材選定の基準を外部に表白することにほかならない。このことによれば、設立委員が採用の自由を有するといっても、採用の基準として提示することにより団結権を侵害してはならないという制約を受けるのであり(労働組合法七条一号後段の法意)、併存する組合のうち、国鉄改革に反対した組合の組合員よりも国鉄改革に賛成した組合の組合員を優先的に採用予定者とすることを採用の基準として提示し、これを外部に表白することは、国鉄改革に反対した組合の団結権を侵害する意味を持つから許されないと解するのが相当である。
このように設立委員の有する採用の自由は、採用の基準の設定段階においても、また、前記の立法趣旨に照らせば採用予定者の決定段階においても、国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていたものである。
国鉄は、設立委員の定めた採用の基準に従い、採用候補者の選定及び名簿の作成を行うこととされており、採用候補者の選定を行うのに必要な限度で採用の自由の実質を有するが、設立委員の有する採用の自由が右のような制約を受けることからすれば、採用の基準に従って採用候補者の選定及び名簿の作成を行う国鉄も、採用の自由の実質を行使するに当たり右のような制約を受けていたのであり、このことは前記の立法趣旨に含まれていたものと解するのが相当である。
四 改革法二三条に基づく採用と労働組合法七条一号
右に述べたとおり、設立委員も国鉄も採用の自由(又はその実質)を有するが、国鉄の職員の所属組合によって差別をしてはならないという制約を受けていた。しかし、設立委員や国鉄がこのような制約を受けるからといって、それ故に直ちにその行為に労働組合法七条の適用があるということにはならない。同条の適用の有無は同条の要件がどのように定められているか、その要件を充足する具体的事実があるかによって決まる。そこで、前記の制約に反し採用候補者の選定及び名簿の作成段階で組合差別が行われたとした場合に、労働組合法七条一号の適用上次のような問題点が生じることとなった。すなわち、改革法二三条に基づく採用は、採用の自由に前記のような一定の制約が加えられたとはいえ、新規採用であるという基本的な性質には変更がないから、「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」(労働組合法七条一号後段)に当たる場合を除き、労働組合法七条一号の禁止する不当労働行為に該当しないこととなる。また、仮に労働組合法七条一号前段の適用があるとしても、設立委員は通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものではないから、労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かが問題となる。前記のように改革法の国会審議の際に組合差別禁止を内容とする立法趣旨が付加されたのであるから、右のような問題点を解消するためには、改革法において、例えば、「二三条二項に基づき国鉄の行う採用候補者の選定に関する労働組合法七条一号の適用については、設立委員を使用者として同号前段の適用があるものとみなす」というような特則を規定することが必要であったと考えられるが、改革法の国会の審議においては、前記の立法趣旨が折角付加されたにもかかわらず、法案に労働組合法七条一号の適用を確保するための修正がされるまでには至らず、改革法二三条の定める採用手続に関し労働組合法七条一号を適用する上での特則が何ら手当てされなかった。そのため、改革法二三条によって労働組合法七条一号の適用が排除されたということではないが、改革法二三条の定める採用手続に関して労働組合法七条一号を適用しようとする段階に至って同号による不当労働行為の法規制の限界が浮き彫りになった。特則が手当てされなかった以上、労働組合法七条一号の規定するところに従って判断するほかはない。
以下、まず、仮に労働組合法七条一号前段の適用があるとして、設立委員が労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かについて検討し、次に、労働組合法七条一号後段の適用について検討する。
五 労働組合法七条一号にいう使用者
設立委員は、改革法上、採用の基準を設定する権限を有し、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載された者の中から承継法人の職員の採用予定者を決定することとされているが、採用候補者の選定については国鉄がこれを行い、これに基づいて名簿を作成することとされていて、設立委員は通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものではないから、労働組合法七条一号にいう使用者に当たるか否かが問題となる。
1 労働組合法七条一号前段にいう使用者
労働組合法七条一号にいう使用者とは、同法七条一号前段が規定する雇用契約関係にある労働者に対する解雇その他の不利益な取扱いについていうならば、原則として、雇用契約上の地位に基づき労働者の労働条件の全部又は一部を決定することができ、労働者に対し解雇その他の不利益な取扱いをすることができる法的権限を有する者を指す。原則として雇用契約の一方当事者である雇用主がこれに当たるが、その者が雇用主ではなくても、その者が労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には使用者に当たるものと解するのが相当である(朝日放送事件についての最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決民集四九巻二号五五九頁)。
同法七条一号前段がいまだ雇用契約関係にない労働者の新規採用についてもこれを「不利益な取扱」に含める趣旨であると解することができるのであれば、採用しなかったことが不利益な取扱いに当たるということになる。このように解するとすれば、採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、どの主体も限定された部分的な権限しか持たない場合については、採用に関し分配されているそれらの権限のうち、どの主体のどういう権限が行使された結果不採用となったのかを判断し、不採用の結果をもたらした権限を有する主体が(部分的に)使用者に当たることを肯定することになる。最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決は、労働条件の一部についてであっても、これを決定できる地位にある者ならば、その限度で使用者性を認めたものと解すべきであるし、また、「雇用主以外の事業主であっても、(中略)雇用主と(中略)同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、(中略)右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」と判示しており、法的な権限を持っていなくても、事実上これと同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、使用者に当たるとしている。そうであるとすれば、採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、各主体がいずれも限定された権限しか持っていない場合であっても、不採用に関して使用者性の有無が問題とされる者が採用に関し限定されているとはいえ一定の法的な権限を持っており、かつ、その権限を行使した結果不採用となったということができる限り、同様のことが当てはまるといえるからである。ここで注意しなければならないのは、部分的使用者性を肯定できるのはその者が自ら決定することのできる事項に関してであることである(最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決参照)。
2 承継法人の職員の採用に関する改革法二三条の規定(権限の分配)と設立委員の使用者性
改革法二三条は、一項において設立委員が採用の基準を提示することを規定し、二項において国鉄が設立委員が定めた採用の基準に従い採用候補者の選定及び名簿の作成を行うことを規定しているから、採用候補者の選定については、どういう選び方をするかは設立委員が決定する権限を有し、具体的な部署に応じて実際に誰を選ぶかは国鉄が決定する権限を有することとしたものと解するのが相当である。このように、改革法上、採用候補者の選定に関して権限が分配されていることを直視して使用者性を考える必要がある。
1で述べたとおり、労働組合法七条一号前段がいまだ雇用契約関係にない労働者の不採用についてもこれを「不利益な取扱」に含める趣旨であると解することができるのであれば、通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有する主体がおり、これがその意思に基づいて採用に関する権限を別の主体に委譲したような場合は別として、法令により採用に関する権限が異なる主体間で分配されており、どの主体も限定された部分的な権限しか持たない場合については、採用に関し分配されているそれらの権限のうち、どの主体のどういう権限が行使された結果不採用となったのかを判断し、不採用の結果をもたらした権限を有する主体が(部分的に)使用者に当たることを肯定することになる。改革法二三条は、採用候補者の選定及び名簿の作成については、設立委員が定めた採用の基準に従い、国鉄が採用候補者の選定及び名簿の作成を行うことと規定しているのであるから、設立委員と国鉄とで、どちらの権限行使の結果として問題とされる不採用の結果が生じたのか次第で不当労働行為責任の帰属主体が決まる。設立委員は、①採用候補者名簿の中から採用予定者を決定する権限を有するのみならず、②採用の基準を決定する権限を有し、採用の基準の内容次第では国鉄に採用候補者の選定に当たって一定の範疇の者を除外させることとすることが可能であり、そうすることによりあらかじめ採用候補者名簿の中からそのような範疇の者を除外させておけば、自ら採用予定者としないという決定をするまでもなくそのような範疇の者を採用予定者から排除する目的を達成することができるから、設立委員は、採用の基準の決定の仕方次第で採用候補者の選定及び名簿の作成を支配することが可能であるということができるのであって、どういう選び方をするかの範疇に属するものと認められる限り、使用者性の点はこれを肯定することができる。
採用候補者の選定に関し設立委員の使用者性を一切否定する原告らの主張は採用できない。
3 被告は、改革法が承継法人の職員の採用手続に国鉄を関与させた趣旨、理由からすれば、本来設立委員のなすべき手続のうち実行行為に限って採用候補者の選定事務を国鉄にゆだねたものであり、国鉄の立場は設立委員の補助機関の地位にあったものとし、これを理由に、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属させることが法の趣旨に沿うものと解さざるを得ないと主張する。
改革法は承継法人の職員の採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定し、採用候補者の選定及び名簿の作成については採用の基準に従い国鉄がこれを行うものと規定し、明文の規定では設立委員による指揮監督権限を定めておらず、設立委員を通常の雇用主のように包括的かつ単一の、全能の権限を有するものと規定していない。これは次の理由によるものである(そのこと自体については当事者間に争いがない。)、承継法人を発足させるに際し、鉄道輸送事業の継続性を確保するためには、承継法人の具体的な部署への配置を考えてその職員を採用するという膨大な事務を短期間に遂行することが必要であり、短期間にこれをこなすことができるのは、承継法人の引き継ぐ鉄道事業の各部署に必要な人員、国鉄職員の能力、勤務状況等について熟知している国鉄をおいて他にはなかった。また、承継法人の職員の募集の対象は国鉄の職員のみで、これに関する資料は国鉄が有しているため、国鉄にこれを行わせることが実際上便利であると考えられた。このような理由と改革法の趣旨とを併せて考えると、改革法は、設立委員に採用候補者選定の判断基準を決定する権限を付与して国鉄がどのような点に着目して選ぶべきかの大局的見地からの選び方の視点を決定させることとし、国鉄には、採用の基準に従い、その枠組みの中で具体的にどの部署に誰を配置するかという観点から採用候補者を選定させ、もって、実際に誰を選ぶかを決定させることとし、これらを踏まえて設立委員には国鉄の作成した採用候補者名簿の中から採用予定者を決定させることとしたものと解することができる。そして、採用候補者の選定及び名簿の作成段階では、国鉄はその職員との関係において雇用契約上の使用者としての立場からは法的に切り離され、改革法によって付与された法定の特別の権限を行使して特別の使命を果たす法的主体として採用手続に関与するのであり、設立委員が定めていた採用の基準に従うべきことを除けば、設立委員による指揮監督下にあることを根拠付ける規定はない。他方、設立委員は採用予定者決定の段階では国鉄によって完成された採用候補者名簿の中から採用予定者を決定することとされていて、採用候補者名簿に登載された者についてはこれが採用の基準に従って選定、登載されたか否かを審査する権限を有するものと解されるが、採用候補者名簿に登載されなかった者についてまでこれを審査の対象に含むことをうかがわせる規定はなく(改革法施行規則一二条二項は「前項の名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を添付するものとする。」と規定し、名簿に記載しなかった職員に関し判断の基礎とした資料を添付することを義務付けていない。なお、人事院規則八―一二(職員の任免)四九条参照)、このような規定に照らして考えれば、改革法は、国鉄による採用候補者の選定については採用候補者名簿に登載された者の範囲で、それらの者の中から採用予定者を決定するという目的の限度で設立委員が審査する趣旨であると解する方が、同法の立法者意思に適合する解釈であると考えられる。以上のような趣旨及び改革法の規定の構造に照らして考えると、同法が前記のとおり採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定し、採用候補者の選定及び名簿の作成については採用の基準に従い国鉄がこれを行うものと規定しているのは、国鉄には、設定された採用の基準の枠組みの中で、具体的にどの部署に誰を配置するかという観点から独立に権限を行使させて採用候補者の選定及び名簿の作成をさせることとし、設立委員にはこのようにして作成された採用候補者名簿の中から採用予定者を決定させることとして、段階ごとに行われるそれらの独立した権限行使の集積によって承継法人の採用予定者が決定されるという採用手続の構造を採ったものと解するのが相当である。
被告は、設立委員が本来的には募集から採用予定者の決定までのすべての権限を持っていてしかるべきところ、前記のような理由から採用候補者の選定が国鉄にゆだねられたものであり、これが立法者の意思であることは、改革法の法案の国会審議において運輸大臣が設立委員と国鉄との関係を準委任、代行と表現したことに表われているとして、改革法二三条が、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につき、これをもって最終的な採用予定者の決定の権限を有する設立委員の行為と見ることとし、これに責任を帰属させることとしたものであると主張する。しかしながら、改革法は、採用手続に段階を設け、各段階ごとに行う事務手続の内容とその主体及び権限を規定している。法令によって採用手続に段階が設けられ、その段階に応じて各主体の権限が別々に規定されている以上、その規定内容に即して両者の関係を考えざるを得ないのであり、設立委員が採用の基準の設定と採用予定者の決定について権限を有することだけでは、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につき設立委員に不当労働行為責任が帰属することの根拠として不十分である。設立委員が採用の基準の設定と採用予定者の決定について権限を有することをもって基本的かつ最終の権限を有すると表現してみても変わらない。また、各主体の権限が別々に規定されているのに、改革法の法案の国会審議において運輸大臣が設立委員と国鉄との関係を準委任、代行と表現したからといって、これを根拠に改革法二三条が国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成につきこれをもって設立委員の行為と見ることとしたということは、困難である。運輸大臣の右国会答弁は、右に述べた改革法の規定内容を法的に正確に表現する趣旨のものではなく、設立委員と国鉄との関係を平易に説明したものに過ぎないと解されるから、これを根拠に右と異なる解釈をすることはできない。
以上述べたことを労働組合法七条一号の適用の見地から見るならば、設立委員と国鉄との間で右のとおり採用に関する権限が分配されているのに、設立委員が権限外のことに関して不当労働行為責任を負うと解することは困難であるから、被告の主張するように、国鉄の立場が設立委員の補助機関の地位にあったこと(被告の主張の真意は国鉄が文字どおりの補助機関に当たるということではなく、国鉄の行為が設立委員の責任に帰属する関係にあることを表現しているものと解されるが、そうであるとすれば、改革法が両者の関係をどのように規定しているか次第で被告の主張のように解することができるか否かが決まる。)を理由に、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員に帰属すると解することは困難であって、各権限の保有主体はそれぞれの権限の行使に関して労働組合法七条一号の使用者性が認められ、それぞれの権限の行使に応じて不当労働行為責任が帰属するものと解するのが相当である。すなわち、国鉄が行った採用候補者の選定及び採用候補者名簿の作成の過程において労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があったとしても設立委員が当然に不当労働行為責任を負うわけではなく、設立委員が設定した採用の基準を国鉄が適用した結果そのような差別的取扱いがされたということができる場合にはじめて、設立委員に不当労働行為責任が帰属すると解するのが相当である。国鉄が採用の基準に定められている内容を採用候補者の選定に適用した結果労働組合の所属等による差別的取扱いがもたらされたのであれば、設立委員に不当労働行為責任が帰属するが、国鉄が採用の基準とは無関係に独自の判断で採用候補者の選定を行った結果労働組合の所属等による差別的取扱いがもたらされたのであれば、設立委員が当然に不当労働行為責任を負うものではないと解するのが相当である。このような改革法が分配した採用に関する権限の帰属に応じ、その権限行使の結果として組合差別的と目される採用候補者の選定が行われたか否か次第で使用者性の有無を判断するのが相当であるから、設立委員が定めた採用の基準の内容及び国鉄がした組合差別的と目される採用候補者の選定の結果との結び付きと切り離して、設立委員が国鉄のした組合差別的な採用候補者の選定の責任を負うものと解することはできず、このような趣旨のものとしては被告の前記主張は採用することができないが、被告の前記主張は、設立委員が決定した採用の基準を適用した結果労働組合の所属等による差別的取扱いがもたらされた場合には設立委員が不当労働行為責任を負うという考え方と矛盾抵触するものではなく、この主張をも包含しているものと解する余地があり、そうであるとすれば、この限度では使用者性を肯定する論拠となるものと解される。
六 採用の基準の設定と不当労働行為
設立委員が決定した採用の基準のうち、国鉄がした組合差別的と目される採用候補者の選定の結果と結び付く可能性があるのは「国鉄在職中の勤務の状況からみて当社の業務にふさわしい者であること」という基準だけであるが、この基準は、その文言によれば国鉄在職中の勤務態度、勤務成績が一般の水準によりも劣らない者であることを意味するものと解され、この認定に反する証拠はない。そうすると、この基準が組合差別的な採用候補者の選定と直ちに結び付くものということはできず、設立委員が設定した採用の基準を国鉄が適用した結果差別的取扱いがされたということはできない。
したがって、設立委員が前記のような内容の採用の基準を決定したことにより不当労働行為を行ったということはできない。
七 労働組合法七条一号後段に該当する場合の使用者
いまだ雇用契約関係にない労働者の新規採用について、労働組合法七条一号前段はこれを「不利益な取扱」に含める趣旨ではなく、同法七条一号後段が不当労働行為に当たる場合を特に規定したものと解するのが相当であることは既に述べたとおりであるが、設立委員は採用の基準を決定する権限を有するから、これから雇用契約を締結することのできる地位にあり、この地位に基づき同法七条一号後段にいう「雇用条件」を定めることのできる者として、同法七条一号にいう「使用者」に当たることになる。
八 募集段階における組合差別を内容とする募集条件の提示と不当労働行為
1 既に述べたとおり、新規採用は、使用者に採用の自由があることに照らし、不当労働行為に当たらないと解すべきであるが、新規採用であっても、黄犬契約は禁止されており(労働組合法七条一号後段)、その趣旨に照らせば、組合員でないことを募集条件に掲げた上で、組合員を不採用とすることも、労働組合法七条一号後段に準じ、許されないものと解するのが相当である。
改革法二三条に基づく採用については、設立委員が、募集条件であり、かつ、採用候補者選定の判断基準としての意義を有する採用の基準を定め、これに従って募集、具体的な採用候補者の選定が行われるのであるから、設立委員が組合差別を内容とする採用の基準を定めた場合は、これが労働組合法七条一号の禁止する雇用条件を定めることに相当するものと解することができる。
承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとされている(改革法二三条一項)。このように承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準の決定権限は設立委員にあり、設立委員が募集の主体であることが明記されているから、国鉄は事実行為だけを行うものであり、行政組織法上の補助機関、民法上の履行補助者に相当する実質がある。したがって、設立委員は、組合差別的な採用の基準を自ら提示しなくても、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められる場合(外形的・客観的に見て募集条件として提示されたと認めることのできるものであることを要するが、必ずしも明示的に募集条件として提示したわけではなくても、国鉄が承継法人の職員の採用候補者の選定に関し組合差別的な言動を行い、そのことが具体的な事実関係の下では国鉄が右募集に当たり特定の労働組合の組合員であることを理由に承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって不利に取り扱う意思を外部に表白したことに等しいと認められる場合を含む。)には、改革法二三条一項に基づき職員の募集に当たる国鉄の行為についてはこれをもって承継法人の設立委員の行為と見ることができるから、承継法人の設立委員がその職員の募集条件のうちに特定の労働組合の組合員であることを除外事由として定めたものと同視することができ、設立委員に国鉄のした採用候補者の選定及び名簿の作成に関する審査是正権限又は作為義務の有無を問わずに不当労働行為の成立を肯定できる。承継法人の職員の採用は、設立委員が国鉄を通じ労働条件及び職員の採用の基準を提示して職員の募集を行うことを不可欠の手続として内包しているから、募集段階において設立委員の行為と見ることができる国鉄の行為は、承継法人の職員の採用について当該承継法人の設立委員がした行為に当たり、同法二三条五項により当該承継法人がした行為とされるものと解するのが相当である。同法二三条五項にいう「当該承継法人の設立委員に対してなされた行為」とは、同法二三条二項所定の国鉄の職員のした承継法人の職員となる旨の意思表示(国鉄の職員のした応募、すなわち申込の意思表示)を指すものと解され、この意思表示の相手方は法的には職員の募集の主体である設立委員である(実際の事務手続は国鉄が行う。)から、このことと対比すると、同法二三条五項にいう「承継法人(中略)の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為」とは同法二三条三項所定の設立委員による採用する旨の通知だけを指すかのように見えないではないが、同法二三条一項所定の設立委員による承継法人の職員の労働条件の提示が右に含まれることは明らかであるから、同法二三条一項所定の承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して行う職員の募集は同法二三条五項にいう「当該承継法人の設立委員がした行為」に含まれるものと解される。そうであるとすれば、募集段階において国鉄がした募集条件の付加が設立委員の行為と見ることができるのであれば、この行為は同法二三条五項により当該承継法人がした行為とされることになる。
国鉄の立場が設立委員の補助機関の地位にあったとする本件命令の理由は、採用候補者の選定及び名簿の作成については当てはまらないが、労働条件及び採用の基準を提示して募集を行うことに関しては右のとおり理由がある。
2 国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められる場合には、労働委員会は、原告らに対し、そのような内容の募集条件がなかったものとし、救済対象者が採用候補者として選定され、名簿に登載されたものとして、採用するか否かを改めて判断し直すよう命ずることができるものと解される。
3 そこで、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められるか否かが問題となる。この事実は本件命令の理由とはされていないが、参加人らはこのような事実があったとして前記のとおり主張するので、以下参加人らの主張のうち、組合嫌悪が外部へ表白されたことを意味するにとどまらず、国鉄が組合差別を内容とする募集条件を定めたということができる可能性のある主張を取り上げ、その主張に理由があるか否かについて判断する。
(一) 労使共同宣言及び雇用安定協約に関する事実
《証拠省略》によれば、第一次労使共同宣言の前文には、「昭和六一年は、今後の鉄道事業の健全な運営に向けた国鉄改革が国民的課題となる重要な年であるが、なかでも余剰人員問題の解決は今年度の最大のテーマとなる。また、これは同時に、国鉄を愛し続けてきた職員一人ひとりの生活の場を確保するという問題でもある。国鉄改革にあたり、真面目に働く意思のある職員がその生活の基盤を失うことがあってはならないという点について、労使の認識は全く共通である。それらの職員に十分な雇用の場を確保するためには、労使一致した雇用確保の努力に加えて、政府・一般産業界など関係各方面の積極的な支援が不可欠であり、これは経営全般にわたる労使の自助努力に対する国民各層の信頼と共感を得て初めて可能となるものである。このような共通の認識に立ち、雇用安定の基盤を守るという立場から、国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」との記載があり、本文の余剰人員対策の項には、前記の内容のほか、「職員の将来の雇用の場の確保、拡充について労使が一致協力する。」との記載があることが認められる。また、第二次労使共同宣言の内容は前記のとおりである。これらの労使共同宣言、殊に第二次労使共同宣言において、鉄道事業のあるべき方向として、民営・分割による国鉄改革を基本とするほかはないことを述べた上で、望ましい職員像について、「今後の鉄道事業は、その健全な発展を遂げるためには、業務遂行に必要な知識と技能に優れていることはもちろん、企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる職員により担われるべきであることについて、労使は完全に認識を一にしている。この考え方に立ち、労使はこれまでも積極的に派遣・休職制度等いわゆる三本柱、直営売店、広域異動等を推進し、さらには「労使共同宣言」に則り、着実な努力を重ねてきた。今後は、さらに必要な教育の一層の推進を図るとともに、労使それぞれの立場において職員の指導を徹底する。」との記載があること(この事実は《証拠省略》により認める。)は、改革法が可決成立した上で行われることになる国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成において、右各労使共同宣言を締結した組合の組合員で右のような指導を受けた者が承継法人(新会社)の職員としてふさわしいとの趣旨を示しているとうかがわれないではない。さらに、《証拠省略》によれば、昭和六一年一〇月二一日の衆議院特別委員会において、杉浦総裁が説明員として、「労使共同宣言というものは、いわば今雇用問題の大変重要な時期でございますので、一般の国民に対しまして労使一体となってやるんだという姿勢を示す、こういうようなことが両方で一致することが信頼関係のもとであるというふうに私どもは思っておるわけでございまして、そうした労使共同宣言に調印のできないあるいはすることに反対である組合に対しましては、私ども信頼を持てません。したがいまして、雇用安定協約を結ぶことができないということでございます。」と述べたことが認められる。
しかしながら、他方、《証拠省略》によれば、同じ審議の場において、東中委員の「今提案されている分割・民営の法律の適用について、日鉄法じゃなくて(雇用安定)協約に基づいて差別扱いをするということはあるのですか。」との質問に対し、杉浦総裁が説明員として、「どの協約かはちょっとわかりませんが、雇用安定協約というものは二十九条四号のいわば例外規定であるということでございまして、その協約を結んでいる組合とそうでない組合の違いは、二十九条四号の発動があるかないかの違いであります。」と答え、また、橋本運輸大臣が、「現在私どもが御審議を願っております法律案、まさに今回の国鉄改革の中で、新たな会社の職員は、国鉄職員の中から新会社の設立委員が提示する採用の基準に従い新規に採用される仕組みとなっておるところでありまして、その際、所属組合等による差別があってはならないと思います。」と述べ、東中委員が「今の御答弁でわかりました。この法律の、分割・民営法案の適用に際しては、例えば従業員を選別、名簿を選定するとかそういう場合には、労働組合の所属によって、あるいは思想、信条によって差別するようなことはしないということだと言われたことは、しかと承っておくわけでありますけれども…」、「あの労働協約では、新法の適用については、労働協約はあってもなくても、雇用安定に関する協約というのは全く関係がないんだということを実質的に今言われたことになるわけです、差別をしないということですから。そう言われたわけです。それはそれでいいんです。」と述べたことが認められる。
承継法人の採用候補者の選定は改革法二三条の付与する特別の権限に基づいて行われるのであるから、その法案を所管する運輸大臣が同条の立法趣旨に所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることを明言した以上、仮に国鉄が前記のように第一次及び第二次労使共同宣言を締結した組合の組合員であって指導を受けた者が承継法人(新会社)の職員としてふさわしいとの趣旨を外部に表示したとしても、そのような表示は運輸大臣の右の答弁によって打ち消されたものということができる。したがって、第一次及び第二次労使共同宣言並びに杉浦総裁の前記の発言を根拠に、国鉄が改革法二三条一項所定の募集に先立ち、第一次及び第二次労使共同宣言を締結しなかった労働組合の組合員であることを理由に、承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって不利に取り扱う意思をあらかじめ外部に表白したに等しいものと認めることはできない。
(二) 人材活用センターの設置及び配属に関する事実並びに動労組合員の異動に関する事実
(1) 前記第二、二、4、(一五)の事実に、《証拠省略》を併せ考えれば、次の事実が認められる。
ア 昭和六一年六月二四日、国鉄は人活センターの設置を発表し、同年七月一日、国鉄は、全国一〇一〇箇所にこれを設置した。
小樽築港機関区、札幌運転区、苗穂機関区、岩見沢運転区、岩見沢機関区、滝川機関区、追分機関区、苫小牧機関区、鷲別機関区及び室蘭機関区においては、併せて一一次にわたって人活センターへの担務指定が行われたが、その担務指定の状況、とりわけ労働組合別の同指定合計人数は次のとおりである。
第一次(昭和六一年七月五日付け)
全動労二三名、国労六名、動労零名、鉄労零名
第二次(同月一二日付け)
全動労一八名、国労六名、動労零名、鉄労零名
第三次(同月二二日付け)
全動労一六名、国労二名、動労零名、鉄労零名
第四次(同月二六日付け)
全動労七名、国労四名、動労零名、鉄労零名
第五次(同年八月一日付け)
全動労一一三名、国労三二名、動労四三名、鉄労二名
第六次(同月八日付け)
全動労八名、国労一名、動労零名、鉄労零名
第七次(同月一五日付け)
全動労九名、国労一名、動労零名、鉄労零名
第八次(同年九月二日付け)
全動労九八名、国労一四名、動労零名、鉄労零名
第九次(同年一〇月三日付け)
全動労零名、国労二名、動労一三名、鉄労一名
第一〇次(同年一一月四日付け)
全動労零名、国労四名、動労一五名、鉄労零名
第一一次(同年一一月一七日付け)
全動労零名、国労零名、動労四九名、鉄労零名
人活センターに配属された全動労、国労の組合員の業務は、北海道においては、ペンキ塗り、構内ごみ拾い、ポイント掃除、ガラス磨き、草刈り等が主に行われ、ほとんど一日中何も仕事がない待機状態にあることもあった。
一方、右のとおり、動労組合員に対しても、昭和六一年八月から人活センターへの担務指定が始まったが、全動労、国労の組合員に対する処遇とは異なり、これらの者は、事実上人活センターには勤務せず、鉄道学園又は職場に派遣された。
イ ところで、国鉄においては、蒸気機関車、ディーゼル機関車、気動車、電気機関車及び電車の五車種が運行されていたが、運転士又は機関士はそれぞれその資格がなければ当該車種を運転することができないこととされており、国鉄は必要に応じて他車種の運転資格を取得させるために、職員に対して教育を行っていた(以下「転換教育」という。)。右のとおり、事実上人活センターには勤務せず、鉄道学園又は職場に派遣された動労組合員は、鉄道学園又は職場においてこの転換教育を受けた。
小樽築港機関区においては、昭和六一年七月ころ当時、運転の仕事に従事していた者は、全動労組合員が一五六名、動労組合員が四三名であったが、同年一一月のダイヤ改正において、同機関区の要員として、ディーゼル機関車、気動車、電気機関車及び電車の四車種(以下単に「四車種」という。)の運転資格を有している者を四八名配置する体制が組まれた。そして、昭和六一年度中に転換教育を受けた結果四車種の資格を取得した者は一二名おり、それはいずれも動労組合員であった。
岩見沢第一機関区においては、人活センターに、全動労組合員六四名ほど、国労組合員四名ほど、動労組合員一九名ほど及び鉄労組合員三名ほどがそれぞれ発令されたが、動労及び鉄労の組合員計二二名ほどは、昭和六一年一〇月及び同年一一月に集中して発令を受けており、また、これらの者は、人活センターに長くて二、三日いた者から、一日も同センターに配属されなかった者がおり、いずれも職場内での転換教育を受けたという実態にあった。
滝川機関区においては、人活センターに、全動労組合員七名、国労組合員二名、動労組合員六名及び鉄労組合員一名がそれぞれ発令されたが、動労及び鉄労の組合員計七名のうち六名は、昭和六一年八月二二日から実施された職場内での転換教育を受けた。
長万部運転区においては、昭和六一年一一月一日に、全動労六名、国労八名、動労四名が人活センターの発令がされたが、このうち動労の組合員四名は、全員昭和六二年三月三一日に退職する予定であった。
苗穂機関区においては、全動労組合員六三名、国労組合員一二名、動労組合員一七名及び鉄労組合員一名が、八次にわたってそれぞれ人活センターへの発令を受けたが、動労組合員一七名及び鉄労組合員一名は、昭和六一年八月一日に発令を受け、すぐに転換教育を受けて、人活センターには一度も顔を出したことはなかった。
ウ 昭和六〇年三月のダイヤ改正後は、往路はディーゼル機関車を運転し、帰路は電車を運転するとか、当該運転士又は機関士が、ある日は電車を運転し、ある日は気動車を運転するなどといった事態が生ずることになり(このような事態を以下「混み運用」という。)、運転士又は機関士は種々の運転資格がなければ乗務することができないこととなった。混み運用の勤務体制については、機関区や運転区の職員の間で、承継法人等においても採られるであろうと予想されていたこともあって、全動労及び動労の組合員の間では、転換教育を受けることが承継法人等に採用されるための不可欠の要件であるとうわさされていた。
エ ところで、苗穂機関区には、昭和六一年四月一日付けで、九七名が転勤してきたが、この全員が勤労組合員であった。この九七名は、滝川機関区から五五名、追分機関区から四二名という内訳であった。苗穂機関区においてこのような多人数の転勤が行われたことは過去に例がなかった。
滝川機関区は、昭和六一年三月一日現在、職員総数二二六名のうち動労組合員が一三六名在籍した箇所があり(全動労組合員は六六名)、一方、苗穂機関区は、同月三一日現在で、職員総数四七一名のうち全動労組合員が三四六名在籍した箇所であった(動労組合員は六七名)。苗穂機関区においては、同年四月一日現在で五〇名を超える余剰人員がいた。
オ 国鉄当局は、人活センター発令直後に転換教育を受ける者と受けない者との区別の基準はもとより、その職員を人活センターに発令するについての具体的な基準を説明したことはない。かえって、昭和六一年一一月二一日に行われた参議院特別委員会において、内藤功議員からの「人材活用センターへの配置の基準をご説明願いたい。」との質問に対し、同委員会の説明員である杉浦総裁は、余剰人員の増大に対応して、所要員を上回る人数については効率的に活用することを目的として人活センターを設置したとした上で、人活センターの配置の基準については、それぞれの所属長がその権限と責任において個々の職員の能力、意欲、適性等々を総合的に判断して適材適所の考え方で行っている旨答弁するにとどまった。
(2) (1)の認定によれば、苗穂機関区には、昭和六一年四月一日に九七名もの過去に例がない多人数の転勤者があり、転勤者はいずれも動労組合員であった上、この九七名のうち五五名は、この転勤直前までは職員総数中動労組合員の占める割合が顕著に大きかった滝川機関区から転勤してきた者である一方、苗穂機関区は、この転勤直前までは職員総数中全動労組合員の占める割合が顕著に大きかったこと、同年七月一日から全国的に人活センターが設置されたが、北海道においては、当初はそこに配属されたのは全動労及び国労組合員のみであったこと、その後昭和六一年八月ころから動労及び鉄労の組合員もその発令を受けたが、実際にはほとんど人活センターに顔を出さず、転換教育を受けるために鉄道学園や職場に配属されたこと、国鉄の分割民営化の施策の前提として多能的運用が提唱され、実際にも混み運用が実施されたこと、したがって、国鉄の分割民営化後の新会社においては、多車種の運転資格を取得していないと運転業務に就く上で不利になる場合が生じ得ることは明らかであったが、その資格を取得するためには昭和六一年当時この転換教育を受ける必要があったこと、一方、国鉄当局は人活センターへの配属の具体的な基準、あるいは人活センター発令直後に転換教育を受ける者と受けない者との区別の基準について何ら説明していないこと、道総局管内の人活センターに配属された全動労、国労の組合員は、ペンキ塗り、構内ゴミ拾い、ポイント掃除、ガラス磨き、草刈り等を主に行い、一日中ほとんど何も仕事がないまま待機していたこともあったのに対し、動労組合員で人活センターに担務指定された者は鉄道学園又は職場において転換教育を受けていたこと、混み運用に伴い、全動労及び動労の組合員の間では転換教育を受けることが承継法人等に採用されるための不可欠の要件ではないかとの雰囲気が醸成されていたこと、以上のとおり認めることができるのであって、これらの事実のほか、人活センターが昭和六二年三月上旬まで存続していたことを併せて考えると、これらの事実は、国鉄が人活センターに配属された職員の多数を占める全動労、国労の組合員を余剰人員とし、転入してきて、転換教育を受けた動労組合員を承継法人の鉄道業務を担う職員として採用候補者に選定する意思を有していることを黙示に外部に表白したことにつながる意味を有することは否定できない。
しかし、他方、昭和六一年一〇月二一日の衆議院特別委員会において、橋本運輸大臣が、「新たな会社の職員は、国鉄職員の中から新会社の設立委員が提示する採用の基準に従い新規に採用される仕組みとなっておるところでありまして、その際、所属組合等による差別があってはならないと思います。」と明言していることは前記のとおりであって、この事実のほか、国会議員が、人活センターに配属された職員の多数を占める全動労、国労の組合員が承継法人に採用されないという差別を受けるのではないかを問う質問をしていないことを併せて考えると、採用候補者の選定が改革法二三条に基づく特別の権限であり、国鉄にこの特別の権限を付与する改革法二三条の立法趣旨として所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることが、法案を所管する運輸大臣によって明言された以上、人活センターへの配属に関する前記の事実が持つ、募集条件の黙示による外部への表白という意味は失われたものということができるから、人活センターへの配属に関する前記の事実を根拠に、国鉄が承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって全動労、国労の組合員を不利に取り扱う意思をあらかじめ外部に表白したに等しいものと認めることはできない。
(三) 国鉄の幹部職員及び職制の言動に関する事実
(1)ア 《証拠省略》によれば、昭和六一年二月二五日、国鉄総裁公館で開催された、動労、鉄労、全施労、国鉄幹部との労使懇談会において、国鉄澄田常務は、「お互い同士的団結を固めたい。」と述べ、また、杉浦総裁は、「総領の甚六と言うが、体の大きいのはなかなか言うことを聞かない。その点、二男、三男、四男は目から鼻に抜ける賢さを持っている。皆さん、親の手に負えなくなった兄貴を、ひとつ導いてほしい。…三兄弟のますますの発展を…。」と述べたこと、杉浦総裁の言う「総領の甚六」、「兄貴」とは国労を指し、三兄弟とは動労、鉄労、全施労を指すことが認められる。
イ 《証拠省略》によれば、昭和六一年四月、杉浦総裁は国鉄職員全員に対して手紙を送付したこと、同手紙には、「すでに政府は国鉄改革について御基本方針を決定し、そのための法律案もすべて国会に提出いたしました。私は、この法案に盛られた改革案が今日考えられる唯一最善の道であると確信しています。それは国鉄を破壊することでは決してなく、国鉄を新しい鉄道として生き返らせることなのです。このことを皆さんよく考えてください。」、「雇用対策の完璧を記すためには、広く国民の皆様の御理解と御支援を得ることがどうしても必要でありますが、そのためには、まず私どもは最大限の自助努力を尽くさねばなりません。そして、これまでの労使の壁を越え、この際労使一体となって雇用確保の努力をすることを国民の皆様に示すことが必要と考え、先般、各組合に対し、労使共同宣言の提起もいたしました。」との記載があることが認められる。
ウ 《証拠省略》によれば、国鉄職員局次長葛西敬之(以下「葛西次長」という。)は昭和六一年四月二二日に「国鉄余剰人員対策について」と題する講演を行い、この内容が昭和六一年八月発刊の雑誌「汎交通」に掲載されたこと、そこには、葛西次長の発言として、「我々としては分割前提で、分割が既成事実になったかのような作業を進めるということは、これは非常に国会の審議においても、いろんな問題がありますし、そういうことはできないわけでありまして、そういうこと以外に、例えば、いまの鉄道が将来活性化された形で運営される場合に必要なこと、あるいは、いまのままでも必要なことについては先にやっておかなければならないということで、いろいろなことをやっております。広域異動というのも一つにはそういう付帯効果をもち得るわけで、三四〇〇人の人は本人の希望最優先で配慮してもらえるということでありますから、事実上本人の希望のところに一応行ける可能性が強いのでありまして、その点が保証されたというふうに考えていいと思います。もちろんこれがストライキをやるとか、ワッペンをつけるとか、上司に対して逆らうとかいうことをやれば配慮しようがなくなってしまうことになりますが…。また、例えば派遣というのをやります。現在も一万人以上が派遣されておりますが、帰ってきたものも含めますと、一万三、四千人がすでに派遣を経験しております。派遣というのは、国鉄にとって重要な民間の企業での働きぶりを学んでこいということで、教育的なものとして、本来の職務に専念するものをクリアーして派遣しているわけでありますから、これは選ばれて教育された人間ということで、当然、新事業体として必要な人間であろうということになりましょうから、まあ蓋然性の問題としてみると、新事業体が引っ張りだこでとるだろうということで、これもすでに一定の評価が進んでいます。それから、現在民間企業のための企業人意識をもたせるために、七万人ほど九月末までに教育を完了する。ここで教育がなされますと、本人も希望し、あるいは成績を判定し、教育に触れて民間人としての気持ちをもたせるようにしたいということでありますから、当然本人の希望が優先的に配慮されるような条件を整えた形になり得る。それが例外なしということになるわけではございませんけれども、プロパビリティの問題としてはそういったことであります。」との記載があることが認められる。
エ 《証拠省略》によれば、国鉄車両局機械課長岡田圭司は、昭和六一年五月、各機械区所長にあてて書簡を送付したこと、同書簡には、「ここで、次の諸点を再度認識する必要があります。
① 国鉄改革を完遂するには、職員の意識改革が大前提である。
② 職員の意識改革とは、端的に言えば、当局側の考え方を理解でき、行動できる職員であり、新事業体と運命共同体的意識を持ち得る職員であり、まじめに働く意志のある職員を、日常の生産活動を通じて作り込むということである。
このような職員のみが、新事業体に明るい未来を約束する。
③ したがって、当面職員の意識改革を行うということは、過去の労働慣行に基づく職員の意識と新事業体の進むべき道との間の闘いであり、必ずそこに労使の対決が生じ、これを避けて通ることは不可能である。
④ 逆に言えば、労使対決、あるいは対決とまでゆかなくとも職員に対して言いにくいことを言うなどということを恐れていては、職員の意識改革は不可能であるということを肝に銘ずべきである。
⑤ そのためには、管理者は自分の機械区は自分の責任においてつぶすのだという居直りが必要不可欠である。この居直りが事態を改善してゆく。
先刻承知のことでもあるでしょうが、更に具体的施策としては、
① 現在の機械区程度の技術力では、何時でも他系統の職員と入れ替わり得ること。
② 現在の機械区の職員の意識レベルでは、何時でも前号①の可能性が高いこと。
③ 余剰人員対策に伴う再雇用のかぎを握っているのは管理者であって、組合ではないこと。
④ 処分歴があっては、どこの企業でも再雇用に対し難色を示すこと。むしろ採用はしない。
⑤ したがって、自分の現在あるいは将来に対しては、自分自身で主体性を持って決めるべきである。
等を、心ある一人一人の職員に十分理解させることが必要となります。区所の職員全号が不良職員というわけではなく、心ならずも大勢に引きずられている職員が多いというのが実態でもあるからです。
是非、個別に心ある職員と話し合い、理解を深めさせていただきたい。
イデオロギーの強い職員や話をしても最初から理解しようとしない職員、意識転換に望みを託し得ない職員等は、もうあきらめて結構です。
いま大切なことは、良い職員をますます良くすること、中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むことなのです。そして、良い子、悪い子に職場を二分化することなのです。」との記載があることが認められる。
オ 《証拠省略》によれば、昭和六一年五月一八日号の週刊読売に杉浦総裁のインタビュー記事が掲載されたこと、同記事には、杉浦総裁の発言として、「国労の抱えている人数はきわめて多い。ですから、国労の動きは重視せざるを得ません。私どもは、決して国労を他の組合と差別して考えることはしていません。むしろ国労には、こちら側から問題をどんどん投げかけて、国労にも時代の流れをよく見きわめてほしいと呼びかけているんです。もちろん、投げかけた問題については、十分、話し合う姿勢を貫いているつもりです。国労も話し合いに乗ってきてほしいと思っているんです。時間はありませんし、そうノンビリともしていられません。ですから、国労も、提起した問題についてはどんどん検討を進めて、国労なりの意見を出してほしい。ただ「反対」というだけでは困るんですね。」、「雇用の確保は一番大事な点です。雇用問題は、労使共通のことですし、労使の壁を超えたざっくばらんな話ができないものかと思っているんですが…。それを国民の前に示すための「労使共同宣言」にも賛成してほしいと呼びかけているんです。」との記載があることが認められる。
カ 《証拠省略》によれば、葛西次長は、昭和六一年五月二一日、動労本部役員、東京地方本部、新幹線地方本部の各三役らに対し講演を行ったこと、同講演中の葛西次長の発言には、「分割・民営化を遅らせれば自然に展望が開けるという理論を展開している人達がいる。国労の山崎委員長です。だれの責任かということを論じても、一〇年間責任を論じていれば、責任はだれにあったかということが明確に論文にできるかもしれない。論文ができた時にそれでみな食えるかというと食えない。レーガンがカダフィーに一撃を加えました。あれで、国際世論はしばらく動きがとれなくなりました。私はこれから、山崎の腹をぶんなぶってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして…」との部分があることが認められる。
キ 《証拠省略》によれば、昭和六一年六月二九日に「国鉄改革に取り組む職員の集い」が開催され、動労中央執行委員長松崎明、鉄労本部執行部員上田重次郎、全施労中央執行委員長杉山茂らとともに、杉浦総裁が出席したこと、杉浦総裁は、このような催しは「国鉄の歴史始まって以来の快挙であるというふうにいっていいんではないかと思います。」とした上で、これに続けて、「私、及ばずながら国鉄改革に向かいまして、先頭に立ちまして歩んでおるつもりでございますが、この総裁の気持ちといたしましてはこのような大応援団、国鉄の職員がこういう気持ちになってきた、これを目の当たりに拝見をすることは本当にうれしい、心から喜ばしく思う次第でございます。」、また、「先般より私どもの改革の方向に大変賛同いただいております四つの組合の方々も来ています。(中略)国鉄改革の情熱を皆様方が持っておる、この一点に志が一つでございます。皆様方はここで同士でございます。そうした一つの志を持ちまして、この難局に対処することにより、必ずや国鉄改革は達成できるというふうに、改めて私は確信を抱いておるところでございます。」と発言したことが認められる。
ク 《証拠省略》によれば、杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された動労全国大会に出席し、そこで、「私どもは、大変革の事案を完成するために、皆さんにいろいろな問題を矢継ぎ早に提案してきました。三本柱、労使共同宣言、あるいは広域異動の大変な事柄を、動労の皆さんには積極果敢に処置を講じていただきました。この姿勢が私どもにとりましてはありがたく思います。動労の皆さんの“知性と勇気”に心から御礼申し上げます。国鉄の組合の中にも「体は大きいが、非常に対応の遅い組合」があります。この組合と仮に、昔「鬼の動労」といわれたままの動労さんが、今ここで手を結んだといましますと、これは国鉄改革どころではない。そのことを想像するたびに、私は背筋が寒くなるような感じがします。世の中の激流に臨機応変、弾力的に対応できる動労の体質が、国鉄改革路線の大きな牽引力となっていると、断言しても差しつかえないと思います。あらためて動労の皆さんに絶大なる敬意と賞賛の言葉を申し上げます。(中略)私は総裁としての最大の責務のひとつは、真面目に仕事をしている職員を、一人たりとも絶対に路頭に迷わせないようにすることだと思います。新しい会社にむけて、具体的な準備にいよいよ本格的に取りかかる必要があります。真面目に働く方に新しい事業体へ行っていただき、健全な鉄道として生まれ変わっていく。国鉄は分解整理されるのではなく、新しい鉄道として再生されるということです。そのことを目指して私も精一杯、残り少ない時間を有効に活用して全身全霊をあげて邁進するつもりです。動労の皆さん、他の三組合ともども新しい鉄道にむかい、国鉄改革への道を邁進していただくようお願い申し上げ、あいさつといたします。」と発言したこと、右発言中「他の三組合」とは鉄労、全施労及び真国労を指すことが認められる。
ケ 《証拠省略》によれば、杉浦総裁は、昭和六一年七月八日から開催された鉄労全国大会に出席し、そこで、「難局を乗り切るためにいろいろな施策、問題提起を矢継ぎ早に行ったが、鉄労のスピーディーな対応には感謝に耐えない。国鉄改革の大きな原動力である。国鉄はマル生運動以降、苦難の歴史が刻み込まれた。生産性運動はまことに当然なことであるが、これをなぜ完遂できなかったのか、と反省している。しかし、この苦難のなかで終始一貫した信念と勇気と行動力の鉄労の存在は画期的であり、絶賛称賛したい。ほめてもほめてもほめすぎることはない。(中略)余剰人員対策には万全を期したい。真面目な職員を一人たりとも路頭に迷わせてはならない。これは私の信念である。政府、産業界挙げて応援してくれている難問を克服しつつ、新会社移行の準備を進めたい。立派な職員が新会社に行けるようにしたい。」と発言したことが認められる。
コ 《証拠省略》によれば、昭和六一年七月三〇日、国鉄総裁室において、国鉄と国鉄改革労働組合協議会(改革労協)との話合いが行われたこと、同協議会への国鉄側の出席者は、杉浦総裁、澄田常務、葛西次長らであったこと、同席上で杉浦総裁は、「労使共同宣言に賛同された各組合が、協議会を作られたことは、大変意義深いことだと考えている。これから一層正念場を抑える大事な時期であり、今後も当協議会を通じて意思疎通を図り、改革の完遂に向けて一体となって取り組んでいきたい。当面のさし迫った問題もあるが、新事業体における新しい労使関係の展望についても、そろそろ考えておかなければならない時期に来ている。皆さん方は、それぞれの立場でリーダーシップを発揮され、将来にわたり我々とお付き合い願いたい。職員の問題については、正念場を迎えることになる。職員管理という立場から、各職員の勤務状況を把握しているが、本人の進路希望とその勤務状況を一体化し、真面目に働いている職員については、最大限希望をかなえてやりたいと考えている。」と発言したことが認められる。
サ 《証拠省略》によれば、昭和六一年八月二八日に開催された全施労の大会に杉浦総裁が出席したこと、同総裁は、同席上で、「全施労の皆様方の今日の国鉄改革への協力につきまして心から感謝申し上げます。先般来、ご存じのように労使共同宣言に加え、更に昨日の第二次労使共同宣言として生まれたわけであります。このことは、戦後の労働運動の中では正に画期的な内容であることは言を待ちません。将来の健全な企業体を目指して、健全経営が定着するまではスト権を留保するということは、まさに画期的なことではないかと信じています。(中略)これらの問題の解決のためには私どもも努力すると同時に全施労の皆様方のご協力をいただきながら、真面目に働く職員が路頭に迷うようなことのないよう、万全を期して参りたいと思いますので一層のご支援、ご協力を賜りたいと思います。」と述べたことが認められる。
シ 《証拠省略》によれば、昭和六一年一一月三〇日付けの「公企労レポート」において、葛西次長のインタビュー記事が掲載されたこと、同記事中葛西次長は、「とくにわれわれが責任をもってやらなければならないことは、新事業体における要員の問題と新しい事業体においての労使関係の問題です。まず第一の要員の問題ですがこれはあくまでも公平にやっていくということになりますが、これを公平にやっていくということは、現在いる人たちのなかから最も新事業体にとってふさわしい人を選ばなければなりませんから、そのための名簿づくりが最大の任務ということになります。そのなかで推進的な、ある意味では参謀本部的な役割を果たすことになります。」とした上で、「改革労組協(注・改革労協)の人たちがこれまで貢献したこと、協力してきたことに対する“ケジメ”はどういう形になるでしょうか。」との質問に対し、「彼らはいち早く、民間型の労組にしなければならないということで、これまでいろいろと協力してきたわけですが、これらはいずれも新事業体になっても労使関係の要となるべきものです。ですから、民営化になってもすぐに順応できる体制がすでにできているといえるわけで、その意味では他の人たちに比べて一歩も二歩も先に進んでいる。したがいまして、新事業体としてもスムーズにこれを受け入れることができ、この点では改革協(注・改革労協)に入っている組合、又は個人のメリットはあると思います。もちろん、これまでの経過のなかで、改革のため諸施策、たとえば派遣問題をはじめ、本柱、広域異動、教育などに協力し、非常な努力と犠牲を払っており、こういうことは個人個人の成績、能力の評価として、十分に蓄積されているものです。したがって新企業体に移る人は、そういう人たちの中から多く生まれてくるという可能性は高いものと思います。これは必ずしも組合がどうだからということではありませんが、しかし組合の指導が時宜を得たものであり、適切であったとすれば、その組合に所属していたものは、かなり得をしたということはいえると思います。ところが一方には、いまだに鉄道点検などと叫び鉄道の安全要求などといっている組合もあるわけです。われわれは安全を最重視し、最大限の努力をはかっているにもかかわらず、あたかもそうではないもののように主張し、国民の誤解を招くという、結果的には再建の妨害をしています。また一方では、新事業体に入ろうという矛盾したことをやっているわけです。その組合に所属している人たちがどうなるか、多くの人たちはこころならずもやっているのかも知れませんが、もしそうならば一日も早く、みずからの意識改革を行い、先へ行っている人たちに追いついてもらいたいと思います。しかしだからといってわれわれが組合内部の事柄についてとやかくいうわけにはいかないので、われわれとしては先ほど申し上げたとおり、新事業体移行のために、必要な諸施策を間違いなく進めていくだけです。それをどう受け止め、どう取り組んでいくかは、それは自分自身の改革と行動につながる問題です。たとえばいま改革協内部で、鉄労と動労との間には意見の食い違いがあり、不協和音があるなどいろいろいわれていますが、実際にはそれを乗り越えてやっているわけです。そういう具体的な事実が大事です。これだけの大事業をやるのですから、内部で意見の食い違いがあるのはあたり前の話です。それぞれが、それを乗り越えて前進してきているわけですが、こういうことも大きな明るい材料になるのではないかと思います。国労についていえば、一方ではいぜんとして民営分割を認めず、旧来の路線にこだわっている人たちがいます。国会で法案が通った段階で、どういう方針をとろうとするのか定かではありませんが、基本的にこれほどの差があっては、話合いの糸口をどう見つけるか、きわめて困難です。もちろんわれわれは、話合いを否定するものではありませんが、相手が土俵に上ってくるのを待つほかはないわけです。しかしこのなかでも、本音で現実について語り、本音で行動をしようという人たちが、各地でほうはいとして起こっていますのでここから活路を見出していくことが可能になるだろうと思っています。」と述べたことが認められる。
ス 《証拠省略》によれば、昭和六二年一月二〇日付けの「公企労レポート」において、葛西次長のインタビュー記事が掲載されたこと、同記事には募西次長の発言として、「昨年以来、国労の内部において現実的でない路線というものに動揺した組合員が組織面では流動化していくいくつかの独立した小さな組合を作るという傾向が出てきております。小さな組合がそのままの形で続いていくということは新しい事業体の労使関係は安定的なものになりませんから、我々として期待したいのは一つの流動化が再編成に向かうという形の中で一つの企業体に一つの組合というものを目指していく方向であってほしいと思います。この期待感から見ておりますと、流動化しそして組織の状況が急速に変動していく過程で、一方は減っていくとともに、改革労組協は完全に多数派を握ったということになります。短期的にいろんな形でたくさんの組合ができ、それが手を握り、そして組織を拡大してきた過程において、世の中では鉄労、動労について不仲であるとか、あるいは動労は偽装転向ではないのか等様々な取り沙汰がなされておりましたが様々な苦しい障害を踏み越えて改革労組協が一二日旗開きの時に一定のスケジュールを出したことは我々にとってみれば非常に望ましいものでありました。二月二日に労連、つまり鉄道労連というものができる。そしてそれが三月の中頃を目途に各会社ごとの連合体に変わっていき、一〇月一日までには一本化するスケジュールができております。もし彼らのスケジュールがそのとおりいくことになれば、四月一日で各企業と一つの会社連合、その中は鉄労、動労あるいは鉄道産業協議会等といった四つの柱の連合体ではありますけれども、会社との関係では一企業一組合というのが実現されるという形になるということで、これは我々としては朗報であり大変結構だと考えているところです。(中略)一方国労の方は少数派になり、修善寺大会で事実上分裂し、昨年の一二月段階から具体的に割れる現象が出てきております。割れるという現象そのものは複数化するということを意味しますが、建て前と本音が違った同床異夢の人たちが集まっているということからくるマイナスもあるわけです。つまり有効な決断ができないとか事態に対する対応が思いどおりにいかないということもあるわけです。割れること自体は決して良いことではありませんが、やむを得ない事情もあるとすれば、我々としてもその現実を踏まえてものを見ていかざるを得ないと思っております。現在の主流派は共産党、協会派主導といわれておりますが、それに対してそうでない人たちがあるわけで、この二つの存在を無視することはできません。それで共産党、協会派とたもとを分かった人たちというのは物の考え方から見ると鉄道労連、今の改革協の考え方に比較的近いわけですから、そういうところとなるべく手を握りながら一つの方向を目指してもらうことができるなら非常に良いことだと思っております。」との記載があることが認められる。
セ 《証拠省略》によれば、昭和六二年二月二日、鉄道労連結成の祝賀レセプションに出席した杉浦総裁は、「今ふりかえってみて本当に皆さんの協力なしに国鉄改革はできなかったと思っている。第一次労使共同宣言、改革協の結成、第二次労使共同宣言等の改革の原動力を高く評価する。皆さんの努力が世紀の改革の基礎となったことは間違いない。二、三日前に職員の意思確認書の集計を発表したが、当初の予想と違った結果が出ている。しかし皆さんとともに歩んできた方向は全然変わらない。新局面に対応して皆さんの努力に応えるように考えていきたい。」と述べたことが認められる。
ソ 《証拠省略》によれば、昭和六一年九月、国鉄小樽築港機関区の岩本検修助役は、全動労の組合員であって検修係で勤務する者に対し、「全動労については採用が危ない。」と発言したこと、このことを聞きつけた全動労小樽築港支部執行委員長ほかの同支部役員は、直ちに、岩本検修助役に対し、不当労働行為を行うのはやめてほしい旨抗議をしたところ、同助役は右発言を認めた上で、申し訳ないと謝罪したことが認められる。
タ 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(ア) 昭和六一年一二月二日、国鉄岩見沢機関区に勤務していた全動労組合員大泉忠(以下「大泉」という。)は、昼食時に同機関区勤務の鉄労組合員田村敬一(以下「田村」という。)から、「長が話をしたいと言っているが、どうか。」と持ちかけられた。大泉は、田村に対して、「長とは機関区長のことか。」と尋ねると、田村は、「そのぐらい分かるだろう。」と述べた上、区長が大泉を新会社に推せんすることになる旨述べた。
(イ) 同日午後一時ころ、大泉は田村から電話を受け、技術開発室に来るようにいわれたので、同室に赴き、同室で田村と二、三〇分程度話をした後、田村と一緒に機関区長室に入った。
(ウ) 同室において、同機関区機関区長高橋一男(以下「高橋機関区長」という。)は、大泉に対し、「この機関区で新会社に何人残れるか知っているか。」と聞いた。これに対し、大泉がたぶん六〇名くらいだと思う旨答えたところ、高橋機関区長は、「新会社に残るためには今までのままの考えではだめだ。」と言った。大泉は、「全動労を脱退するくらいなら、どこの組合にも加入しない。」旨述べたところ、高橋機関区長は、「それではだめだ。」と言ったため、更に大泉は、「加入するとしても国労だ。」と答えた。これに対し、高橋機関区長は、「情勢はそんなに甘くない。」と述べた上で、「どこに入れと区長自身が口にしたら不当労働行為になるから。」と言って、同席していた田村に対し、「おい、ちゃんとしてやれ。」と述べた。
(エ) 大泉は、高橋機関区長に対し、「結論は簡単には出せない。」と話して、午後二時一五分ころ、機関区長室を退出した。
チ 《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(ア) 国鉄岩見沢機関区に勤務していた全動労組合員加藤尚彦(以下「加藤」という。)は、昭和六一年一二月、企業人教育を目的として、二泊三日の予定で鉄道学園で教育を受けた後、同月七日同機関区に出勤したところ、高橋機関区長は加藤を機関区長室に呼び出し、加藤に対して「考えているか。」と質問した。加藤が黙っていると、高橋機関区長は、更に「全動労を辞める考えが固まっているか。」と質問した。加藤が「明日返事をする。」と答えたところ、高橋機関区長は「今決めなさい。」と迫ったが、加藤は返事をせずに機関区長室を退出した。
(イ) 同月八日朝の点呼終了後、加藤は機関区長室に赴き、高橋機関区長に対し、全動労を脱退する旨話したところ、高橋機関区長は、加藤に対し、「それで後はどうするのか。」と質問した。これに対し加藤が「国労に加入させてもらおうと思っている。」と答えたところ、高橋機関区長は加藤に対し、「情勢はそんなに甘くない。どちらかにしなさい。」と述べた。加藤は、この「どちらか」とは鉄労か動労のいずれか、との趣旨であると捉え、「それでは鉄労に加入する。」と答えたところ、高橋機関区長が鉄労の北野実(以下「北野」という。)を電話で呼び出したので、加藤はその場で北野を通じて鉄労への加入の手続を行った。
(2) (1)の事実のうちシの事実、すなわち、昭和六一年一一月三〇日付けの「公企労レポート」のインタビュー記事において、葛西次長が、改革法の成立直後に行われたインタビューに答え、これから行うべき改革法二三条二項に基づく採用候補者の名簿の作成に関し、殊に「改革労組協の人たちがこれまで貢献したこと、協力してきたことに対する“ケジメ”はどういう形になるでしょうか。」との質問に対し、改革労協を構成する組合の組合員がかなり得をしたといえる等の発言をしていることは、発言の時期、発言者の地位及び記事の内容から見て、前記(一)(1)及び(二)(1)の事実を踏まえて考えれば、重要な意味を含む可能性があると考えられるが、他方、形式的には雑誌のインタビュー記事での発言であり、募集条件として提示されたものではないから、このインタビュー記事が実質的に募集条件を示したものといえるかどうかは、それが受け手である国鉄の職員、殊に全動労又は国労の組合員にとって募集条件を付加されたものとして受け止められたか否かによって判断すべきである。この観点から検討すると、前記のとおり、改革法の法案の国会における審議を通じて改革法二三条の立法趣旨に所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることが明確にされており、その事実の持つ重みは大きいものがあったと考えられ、この事実のほか、このインタビュー記事の掲載された「公企労レポート」の発刊後全動労又は国労の組合員が動揺して大量に脱退したとか、あるいは全動労又は国労が国鉄に対して直ちに抗議を申し入れた等の事実があったことを認めるに足りる証拠はなく、前記第二、二、5、(九)のとおり全動労が国鉄に対し昭和六二年一月二〇日に採用候補者名簿の作成及び提出について団体交渉を申し入れた際にも、採用の基準のうち「当該会社の業務にふさわしい者」の判断基準及び判断者を明らかにするよう求めながら、このインタビュー記事を明示的に取り上げていないことをも併せて考えると、このインタビュー記事は、この内容を知った国鉄の職員、殊に全動労又は国労の組合員にとって、国鉄が承継法人の職員の募集条件を示しているものと受け止められる機能を果たさなかったものと認めることができるから、結局このインタビュー記事をもって国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものとまで認めるに足りないものというべきである。
(1)の事実のうち、その余の事実については、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認めるに足りないものであるか、改革法の法案の国会における審議を通じて改革法二三条の立法趣旨に所属組合等による差別があってはならないことが含まれていることが明確にされたことによって意味が失われたものであるか、又は募集の時期終了後の言動であり募集条件とは結び付かないものであるから、国鉄が承継法人の職員の採用候補者の選定に当たって全動労、国労の組合員を不利に取り扱う意思をあらかじめ外部に表白したに等しいことの根拠とはならない。
4 その他国鉄が組合差別的な募集条件を付加したことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、参加人らの予備的主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
九 実質的同一性の法理の適用の有無
参加人らは本件に実質的同一性の法理が適用されると主張するが、改革法が承継法人の職員の採用については専ら採用を決定する側に自由があることを規定しており、同法二三条はこれに基づく採用候補者の決定につき採用の自由を付与したものと解するのが相当であること、この点が核心であり、承継法人の職員の採用の対象がすべて国鉄の職員であり、国鉄の職員の立場からすれば採用されないことが解雇されるに等しい実質を持つことや、鉄道事業を構成する資産等が承継法人に承継され、その面では営業譲渡の実質を有することによって右の判断が左右されるものではないこと、同法二三条による採用は新規採用に当たること、以上の各点は既に述べたとおりである。参加人らの主張する実質的同一性の法理を肯定することができるか否かはともかくとして、右に述べた各点によれば、国鉄と原告らとが実質的に同一であることを理由に国鉄が行った採用候補者の選定及び名簿の作成につき原告らに不当労働行為責任が帰属するものということはできない。
参加人らのこの点の主張は理由がない。
一〇 昭和六二年六月一日付け補充採用の際の参加人ら組合員の不採用
原告北海道会社は昭和六二年六月一日付けで補充採用を行い、本件全動労組合員のうち別表第1に掲げる者は全員不採用となったことは前記のとおりであるが、この補充採用も新規採用に当たるものというべきである。しかるに、原告北海道会社が採用の基準として提示した内容は、前記第二、二、5、(一八)のとおり国鉄及び清算事業団在職中の勤務状況からみて当社の業務にふさわしい者であることなどであり、この採用の基準が組合差別的な内容のものであるということはできないし、他に原告北海道会社が全動労の組合員でないことを雇用条件や募集条件として提示したことを認めるに足りる証拠はないから、労働組合法七条一号後段に該当する不当労働行為があったものということはできない。
一一 結論
以上の次第であって、設立委員、原告らに不当労働行為責任が帰属する根拠となる事実は見出し難く、本件命令の取消しを求める原告らの請求は理由がある。
(裁判長裁判官 髙世三郎 裁判官 鈴木正紀 吉崎佳弥)
<以下省略>